□やる気があるだけ(・・)では絶対に“続かない”――――本日のゲストは6万5千部の大ベストセラー『「続ける」技術』の著者、石田淳さんです。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。――――『「続ける」技術』の中にもありますが、「行動科学マネジメント」について教えていただけますか。
行動科学マネジメントというのは、今まで“マネジメント”というと、もちろんビジネスでも言いますし、セルフマネジメントも含めてそうですが、精神的な部分、例えばモチベーションを上げるとか、やる気を出すという部分に焦点を当てているものが非常に多かった。しかし、いわゆるモチベーションとかやる気のように、目に見えないというか、他の人には正直言って成果が上がっているかどうかわからないところではなくて、目に見える行動にだけ焦点を当ててそれを改善して成果を上げていこう、というのが行動科学マネジメントと言われるものです。――――目に見える行動だけなんですか?
そうです。行動は目に見えるので、他の人でも変えることができるわけですよね。でもやる気とかモチベーションというのは、他の人にはわからない。
実際、やる気があるとかモチベーションが上がっているというのは、自分でもわからないと思うんですよ。だからそうではなくて、目に見えるところをまずは改善していきましょう、ということなんです。――――本の中でその行動についていろいろな角度から書かれていて、まず冒頭でダイエットや英会話といった、続けられそうでなかなか続けられないテーマについての失敗例から書かれていますが、これは実際にそういった経験のある方の話なんですか?
僕自身も英会話でまさにぶつかっていましたし、後はいろいろな人にアンケートのようなものをしてもらって、例えば今までにセルフマネジメントでどういうものをやったことがあるかを尋ねて、大体の人がやっているものを幾つか羅列して書きました。――――ダイエットでも英会話でもそうですが、ビジネスパーソンの方はどうしても日常の仕事が忙しいこともあって、それらの優先順位が下がることは結構ありますよね。私は昔マラソンをやったことがありますが、最初の1、2回まではウエアを買ったりして盛り上がりますが、なぜか続かなくなる瞬間がありませんか?
ありますね。3、4日くらいやって雨が降ったりすると、「今日1日くらい休んでも、また別のときに倍走ればいいか」というふうに段々なってしまう。――――つまり「続ける技術」があるということは、逆に言えば「続かない理由」もやはりあるということですか?
あります。それは、やる気とかモチベーションといった自分自身の内面だけを見ているとそうなってしまうんです。正直言って、続けるときにどれくらい自分のやる気やモチベーションに影響力があるかと言うと、これは行動科学という学問で実証されていますが、100%のうちのたった20%しか影響力はないと言われているんです。――――たった20%ですか?
20%だけなんです。残りの80%は、どういう環境作りをしていくか。それによって継続できるかどうかが決まってくるんですね。――――つまり、「続けるぞ」といった気持ちよりも、環境作りが大切ということですか?
もちろん。環境作りがほとんどです。でも日本の場合は、どうしてもいきなりやる気とかモチベーションというところに向かってしまう。
でも、やる気やモチベーションなんていうのは、実際やる気があっても、例えば午後になって彼女から電話がかかってきて「別れたい」なんて言われたら、当然やる気を無くしますよね。雨が降ってきたとか、体調が悪いとか、ちょっとしたことで上下するわけです。そうではなくて、環境作りを最初にきちっとやっておくということが、続けるときにはすごく重要なポイントになってきます。――――よく、マラソンをやると決めたら「マラソンやるぞ」と自分で決意して、せめて紙に書いておく、などと言いますが、それはあまり意味がないんでしょうか?
意味がないということはありませんが、行動を持続するための影響力は0%から20%という実験の結果が出ています。最大でも20%しかないんです。それなら残りは何が関係するかというと、それが環境作り。その環境作りの仕方を本に書きました。どういうステップを踏んでいけばいいか、ということをです。――――例えば、環境作りができていない状態というのは、どういうことがあると続けられない状況なんでしょうか?
英会話を勉強しようと思っているのに漫画喫茶でやっても、それはやる気があるとかないとかの問題ではないんです。英会話を勉強するなら、図書館へ行ってテレビも何もないところで勉強するということをあらかじめ決めておいて、尚且つ時間は何時から何時まで、月曜日から金曜日まできちっとやる、と決めておけばいいわけですね。それだけでも持続する可能性は非常に上がるんです。――――要するに、自分の気持ちややる気を削ぐものを排除したほうがいい、ということですか?
そうですね。極力そういうものに近づかない。最初からそういう環境設定をしておく、ということです。やる気とかモチベーションとか目標を最初に作るというのももちろん重要ですが、それ以上にどういう環境作りをしていくかというほうが遥かに重要になってきます。□“環境設定”するだけで必ず誰もが続けられる――――より続けられる、継続できるプラスの環境というのは、どういう形にしていくといいのでしょうか?
いろいろなケースがあると思います。本の中で言っているのは、目標を達成するための「ターゲット行動」とか、それに対する「ライバル行動」というのがあります。例えばダイエットにとってのターゲット行動は何かというと、ジョギングを1日3キロすると決めたら、その運動量を増やしていくといったことです。ではライバル行動は何かというと、例えば今まで週に3個ケーキを食べていたのを2個減らして1個だけにする、という行動になるわけですね。――――「続ける」という面から一番出てくる話に、禁煙がありますよね。ちなみに吸われますか?
吸いません。――――意志が強いんでしょうか?
そんなのは全く関係はないと思いますよ。――――雑誌などでもよく「禁煙に成功しました」といった話がありますが、やっぱりそれも同じなんですね。つまり「禁煙を続ける」ということだと?
全く一緒です。煙草を吸うことを止める、煙草を吸うという行動を減らしていく、ということです。セルフマネジメントをする場合というのは、“増やす行動”と“減らす行動”の2つがあるんです。――――例えば「続ける」といったときに、禁煙のケースで言うと止める行動を続けるというのは、人にとってストレスになる場合がありますよね。そのストレスを上手に排除するための環境作りの仕方も、当然あるということですか?
ありますよ。それは「チェンジ行動」と言って、例えば煙草を吸いたくなったら飴を舐めるとか、そういうものをあらかじめ幾つも用意しておく。代わりの行動で切り替えていくんです。――――手持ち無沙汰になるといけないんですね。
そうです。――――自分だけではなくて家族と一緒に続けていくこともありますよね。例えば部屋をいつも綺麗にしておくといった、自分の周りを巻き込んで継続する場合です。この場合はどうすればいいのでしょうか?
いわゆるご褒美を非常によく使うといいんです。これをやったら、みんなで美味しいものを食べに行こうとか、幾つもそういうものを用意しておけばいいんです。――――例えば掃除をするとなると「あなたはトイレ、あなたはお風呂」と役割分担だけを決めて、やっていないと責めたりしますが、それでは駄目だと?
それは駄目ですね。やったら褒めてあげたり、認めてあげたりするんです。この「続ける技術」は子供達にも実践しているんですよ。例えば子供が家で1人で勉強するようにするにはどうすればいいのか、お母さん達にこの話をして、こういう環境設定をしてこうやっていけばいいですよ、と。
これは会社であれば営業マンはみんなそうですよね。続けるためにはどうしたらいいのか、タイムマネジメントはどうやればいいのか。それは本人のやる気に任せるのではなく、環境設定をして、このステップならほとんどの人が続けていけますよ、というものを、場面、場面ですべて作ってあげるんです。そうすればセルフマネジメントも当然そうですが、子供達でも、社員でも部下でも続けることができるようになるわけです。――――続けるために大事な環境作りを、ときとして全くないわけではなく少しはあるとか、人によっては「ルールはないけどやっている気がする」という方もいますよね。でもそれも、ある程度は形として、ルールとして、例えば何らかの形で文字にしておくといったことをしなければならないのでしょうか?
それは重要です。どうしてもメジャーメントが重要になってきます。つまり、計測をしていくということです。例えば毎日1キロ走ったら1キロ走ったということがわかるグラフを作って、それを目に見える形で貼っておくといったようなことは、すごく重要なことなんです。(2)に続く