|
|
本間 裕
経済評論家、第一商品「経済・商品セミナー」レギュラー講師 [ 資産運用 ]
|
|
米国債の格下げ/覚醒を始めた日本人/不換紙幣と兌換紙幣
2011.09.13
|
|
|
●米国債の格下げ (2011年8月9日)
8月5日に、S&P社が米国債の格下げを行った。 そして、米国債は、歴史上初めて、「AAA」という最上級のランクを失ったが、 この後に起きたことは、きわめて奇妙なことだった。
つまり、「格下げされた国債の価格が上昇し、戦後において、 最低の金利状態になった」ということだが、 この点については、どのような理論を持ってしても、 説明が付かないことだと考えている。
そして、今までに申し上げてきた、「プログラム売買による国債の買い支え」でしか、 理由が見つからないような状況でもあるのだが、 このことが意味することは、反対に、 「これから、本格的な金融混乱が始まる」ということだと考えている。
具体的には、「誰が、先進国の国債を買っているのか?」 という点を理解すると、全てのことが納得できるのだが、 実際には、「政府を中心にして、国債価格の暴落を防ごう」 という思惑が、世界的に存在するのである。
つまり、「ありとあらゆる手段を行使しながら、時間稼ぎを行っている」 というような状況が推察されるのだが、このことが意味することは、 「借金爆弾の規模が、日に日に、大きくなっている」ということである。
また、「国債価格の上昇」ということは、「単価×数量」の面から考えると、 「国債の時価総額が急増している」ということを意味し、 今後は、「買い支えに関して、より膨大な資金が必要とされる」 ということも理解できるのである。
そして、最も大きな問題は、このような「無謀な動き」を見た国民が、 「今後、どのような行動を取るのか?」ということだが、このことは、 最近の「中国高速鉄道事故」において、 「いったん埋めた車両を、再度、掘り返した」という出来事を 思い出させるのである。
つまり、「国民が、政府の暴走に気付いた時に、 どのような事が起きるのか?」ということだが、 実際には、「ネット社会の発展により、問題が隠しきれなくなった」 というような状況が起きたのである。
そして、今後は、「先進国の国債」に関して、 「同様の事態が起きるのではないか?」とも考えられるのだが、 このことが意味することは、 「買い支えが継続できなくなり、本来の姿に戻る」ということだと考えている。
具体的には、「国債価格の急落」ということだが、 現時点では、この対処法として、 「先進国の政府が、慌てて、紙幣の増刷を実行する」 という方法しか残されていないのである。
また、現在の「金価格の急騰」については、 「このことを察知した人々が、急速に、資金を移動させている」 という段階のようであり、今後は、この動きが、 世界的に加速していくものと考えている。
●覚醒を始めた日本人 (2011年8月17日)
「3・11の大震災」は、たいへん悲惨な出来事であり、 結果としては、日本人のみならず、世界中の人々に、 大きな衝撃を与えた事件だった。
また、東北地方については、一刻も早い復興を願っているが、 約5ヶ月後の現時点において、 「この事件は、日本人に対して、どのような意味を持っていたのか?」を考えてみると、 やはり、「天の警告」だった可能性が高いようにも感じられるのである。
つまり、「原発の危険性」や「政官業の癒着」などに対して、 まったく、危機意識を抱いていなかった日本人が、 今回の大震災と大津波により、「認識が、180度、転換した」 という状況になったからである。
具体的には、「原発が、どれほど危険なのか?」、 そして、「地震国である日本で、何故、これほどまでに原発が推進されてきたのか?」 という点について、全ての日本人が、問題意識を持ち始め、 自己防衛を図り始めているのである。
あるいは、戦後の日本が、どれほどの高度成長を経験し、 現在の「当たり前の生活」が、どれほど「有難い」ものだったのかを、 十分にかみしめ始めているのだが、このことが意味することは、 「日本人の覚醒」であり、戦後の歴史的な高度成長の後に、 史上最大規模の堕落をした民族が、大きな転換を始めたものと考えている。
また、この時に大切な事は、「原発」が「実体経済の象徴」であり、 かつ、「国債」が「マネー経済の象徴」だということである。
つまり、「実体経済」については、すでに、 「日本人の覚醒」が始まったものと思われるのだが、 一方で、「マネー経済」については、 「まだ、十分な状態ではない」ようにも感じられるのである。
具体的には、「なぜ、ゼロ金利政策が継続し、また、円高が起きているのか?」 ということや、あるいは、「世界で最大規模の国家債務を抱えながら、 なぜ、金利が上昇しないのか?」ということなどである。
別の言葉では、「大きな事件が起きない限り、問題の本質に気付かない」 ということが、「人間の性(さが)」とも言え、今回も、 「マネー経済に関する大事件」が起きた時に、 「3・11後の混乱状態」が繰り返されるものと考えている。
そして、今回、予想される出来事は、やはり、「国債価格の暴落」であり、 しかも、「世界的に、起きる可能性が高い」ということである。
ただし、一方で、一部の「覚醒を始めた日本人」は、的確に、 このような状況をとらえ始め、積極的に「金(ゴールド)」を買い始めているのだが、 問題は、「絶対的な金額において、まだまだ不足している」ということである。
つまり、「約1500兆円」と言われる「個人の金融資産」に比較すると、 「金の保有額は、微々たる金額にすぎない」ということであり、 今後は、この点が、大きな関心事になるものと考えている。
●不換紙幣と兌換紙幣 (2011年8月26日)
紙幣には大別して二種類が存在するものと考えているが、 それは、「不換紙幣」と「兌換紙幣」のことである。
そして、「兌換紙幣」というのは、 「金貨や銀貨、あるいは、地金と交換可能な紙幣」のことであり、 一方、「不換紙幣」というのは、現在の「一万円札」のように、 「政府」や「日銀」が、金や銀などへの交換を保証していない 「単なる紙切れ」ということだが、現在の世の中では、 「一万円札を持っていけば、喜んで、一般的な商品のみならず、 金や銀も売ってくれる状況」にもなっているのである。
つまり、現在の社会では、誰も、不換紙幣や兌換紙幣の区別をせずに、 「千円札や五千円札、あるいは、一万円札などの紙幣が、本当のお金だ」 と考えているようだが、少しだけ歴史を遡ると、 全く違った状況が見えてくるのである。
具体的には、「今から100年前の日本」においては、 兌換紙幣が発行されていたのだが、当時の人々は、 「金や銀に交換できない紙幣には、価値が無い」と考えていたのである。
あるいは、「不換紙幣」に対する不信感が存在していたために、 「兌換紙幣」しか通用しない社会情勢でもあったようだ。
このように、「貨幣の歴史」を眺めると、さまざまなことが見えてくるのだが、 現時点で、最も重要なポイントは、兌換紙幣と不換紙幣との分岐点が 「発行主体への信用」に存在するということである。
つまり、「紙幣を発行する中央銀行」に対する「絶対的な信頼感」 が存在することにより、「不換紙幣は、初めて、発行が可能だ」ということだが、 現在では、このような基本も忘れ去られているのである。
そして、「なぜ、このような状態になったのか?」が、 今回の金融混乱を理解するうえで、極めて重要なポイントだと考えているのだが、 この理由としては、「戦後の高度経済成長」により、長い期間にわたり、 「経済」や「政府」に対する信頼感が蓄積されたという事実が存在するのである。
つまり、どのような異常な出来事といえども、長い期間にわたり、その事実が継続すると、 「異常な状態が、当たり前と錯覚される」ということである。
別の言葉では、このような状況こそが、私が考える「信用本位制の金融システム」 ということだが、現在の金融混乱が意味することは、 「通貨への信頼感」が失われ始めているということである。
そして、結果として、「知らないうちに、多くの人が、兌換紙幣の基本である、 金や銀を求め始めた」という状況にもなっているようだが、 過去の歴史が教える教訓は、ほとんどの場合において、 「ハイパーインフレにより、不換紙幣は紙くずになる」という事実になるが、 今回も、同様の歴史が繰り返されることになるようだ。
【著者】 本間 裕(ほんま ゆたか) ・経済評論家 ・第一商品「経済・商品セミナー」レギュラー講師
|