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池上彰
フリージャーナリスト [ コミュニケーション ]
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池上彰
[インタビュー]
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「話す」「書く」「聞く」の3つの能力の磨き方(2)
2008.01.09
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商談、会議、プレゼンでいかにうまく伝えるか ――コミュニケーションを円滑にする極意
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□メールの“絵文字”があなたの表現力を奪ってしまう?
――――「もう1人の自分を持つ」ということで、ビジネスマンの皆さんが困っているのは、恐らくメールだと思うんです。
はい。
――――本の中にも書かれていますが、わかりやすく伝えるためのメール術として、メールも打つ時、見直すのはもちろんだけれども、見直し方にコツがあるということを書かれていらっしゃいますが。
そうなんですね。急いでいると、メールをチャチャッと打って、ピッと送信をして送っちゃった後で「あ、しまった」。
――――ありますね。
あります。あれが抜けていたとか、これが間違っていたとか。「失礼な言い方しちゃったんじゃないか」「うわ、しまった。取り戻したい。だけど駄目だ」ということがありますね。いわゆる本当の友達同士とか仲の良い人同士のメールならいいんですけど、こと仕事のメールとなりますと1度書いたものをできればプリントアウトして、それを改めて見るんですね。
――――画面で2度3度確認するよりも、プリントアウトして確認すると?
全く違うんです、これは。コンピューターの画面で見ている文字と、プリントアウトしてみた文字と、全く違うんです。プリントアウトしてみて初めて、第三者の立場でそれを見ることができるんですね。
――――第三者というのは、先程の「もう1人の自分」ということですか。
そうですね。もう1人の自分、あるいは私と相手ではない、全く関係ない客観的な別の人が、それを初めて読む文章として読む、と。
――――もう1人の自分も見ることができるし、例えば同僚だとか上司だとかに見てもらうこともできると?
もちろん同僚や上司に見てもらうこともできますが、そうではなくてプリントアウトしたものは、まるで自分が書いた原稿ではないように読めるんですよ。
――――画面から紙に変わっただけで、ですか。
そうですね。そうすると、画面に出ている時には気付かなかった、いろんな欠陥に気付くんですね。「これじゃあ意味不明だよ」とか「舌足らずじゃないか」ということに気が付くんです。
――――同じ文章でも、画面にあるものとプリントアウトされた紙とは違うと?
全く違いますね。これまでも私はいろいろと本、原稿を書いているのですが、例えばパソコンの画面で出ているときに一生懸命誤字脱字を見つけても、なかなか見つからないんです。プリントアウトしてみると、誤字脱字にずいぶん気が付くんですね。全く違うものだと考えたほうがいいと思います。
――――では重要なメール、あるいは資料ほどプリントアウトして確認する、と。その手間を惜しまないことが、1つのポイントなんですね。
そうですね。そして、仕事の時にそういうことに役立つ能力をつけるためには、日頃から絵文字をやめるということが大事なんです。
――――絵文字をやめるんですか。
絵文字とか、あるいは何か言っておいて文字面で見ると厳しいことを言っているように見えるけど、(笑)と書くと「これは冗談で言っているんだよ」ということが相手に伝わりますね。それに頼っていますと、本当の仕事上のメールというのはそんな絵文字を使うと失礼にあたりますでしょう。そうすると、その文字面だけで何を言いたいかということをきちんと伝えなければいけないんですね。ところが絵文字に頼っていると、その表現力が失われてくるんですよ。文章だけで、相手に誤解を与えないような言い方をする。そのためにはどうしたらいいのか。この文字面だと怒っているように受け止められる可能性があるよね、と。友人同士だったら(笑)で済みますが、ビジネスやそうではない時には、誤解されないような表現にするためにどうしたらいいのかな、ということを考えなければいけないんですね。日頃から絵文字に頼ってメールをしていると、そういう力が失われます。
――――絵文字を使うのは、自分が本来伝えるためにしなければいけない努力をやっていない、ということになるのですね。
そういうことだと思いますね。
――――絵文字、顔文字、それと(笑)などで感情を伝えることのではなく、ちゃんと言葉で伝えよう、ということですね。
そうです。感情は言葉で伝えようということです。
□“失敗談”が、なぜ相手の心を掴むのか
――――伝えるというテーマでもう1つ皆さんが結構工夫されている、あるいは工夫したいと常日頃から思っているテーマをお訊ねしたいのですが、「掴み」というのがありますね。
「掴み」ね。はい、あります。
――――この本の中では映画の「007」を例にして紹介されていますが、「掴み」というのは、どれほど重要なのですか。
そうですね。ハリウッド映画を見ているとよくわかるんですが、最初にいきなり訳がわからないようなシーンが出てきたり、いきなり猛烈に迫力のあるシーンが出てきたりして思わず見入ってしまっているうちに、ふと気が付くと映画が終わっているという。一挙に引きずり込みますよね。例えば、会議の場でも提案の場でもプレゼンテーションの場でもそうですけれども、そこにいらっしゃる方に自分の話に集中してもらわなければいけません。その時に「この話はそもそも……」と淡々とやったのでは、すぐ飽きてしまったりなかなか聞いてくれませんよね。その時、とりあえず「こいつ何か面白いこと言うらしい」「なんか変わった視点を言うらしい」という最初の注目を集めるために「掴み」に工夫をする、ということです。
――――なるほど。お笑い芸人の方などは、必ずやっていますよね。
はい、やっていますね。
――――この本の中で紹介されている映画の「007」では、最初にアクションシーンあるいはカーチェイスがあって、それからちょっと難しい国際政治の話に入っていく。ビジネスの世界でも、生真面目な人ほど何故この新しい商品、コンセプトが誕生したのかということを始めから順番に伝えると思います。それでは伝わらないと?
そうですね。例えば今の商品の話でしたら、多分開発の途中経過をもし言うのであれば、その途中で失敗した話がある筈ですよね。ですから、いきなり失敗の話から持ち出すわけですよ。
――――なるほど。
「これはこんな失敗がありまして」と。人というのは自慢話をしたがるものですが、人の自慢話は聞いていて面白くないんです。「いやぁ、私は失敗してしまいましてね」といきなり失敗の話からすると、「あ、この人は気さくな人だ」と。「好感持てるじゃない」と思えるわけですね。
――――具体的に言うと、プレゼンテーションの場だとすると最初は挨拶をしますね、自分の名前など。その後、いきなり失敗の話をするんですか。
そうですね。
――――それでいいんですか。
ええ。「今回のこの商品ですが、実は開発途中でこんな失敗しちゃいまして」と言ってとりあえず笑いをとると、「あれ、こいつ面白い奴だな」というところから始まって、「何故そんな失敗をしたかというと、つまりこういうことをやろうとしたからです。つまりこの商品は、こういうコンセプトで、こういう狙いで作ったんです。そんな失敗もあったのですが、その後こういうことでそれが回復され、結果的にこういうものになりました」と言うと、自慢をしていないのにもかかわらず、この人はとても苦労をしてやったんだなという苦労談を、相手がわかってくれるわけですよ。
――――いきなり「掴み」のところで突拍子もない話をすると、脈絡なくいきなりその話がポーンと飛び出すわけですよね。
そうですね。
――――それでいいものなんですか。
いいんです。ただ、それが結果的に「さっきの突拍子もない脈絡もない話はなんだったの」となると、これは失敗なんですね。脈絡もない話から入ったと思ったら、ここに繋がってくるのねと皆が途中で納得すれば、OKなんですよ。
――――なるほど、なるほど。
だから、いきなり「こんな失敗しましてね」というそれだけのエピソードで終わってはいけないわけですよ。「何故こんな失敗の話から始まって、何故こんな失敗をしたかというと、こういう商品を作ろうとしたからです。その失敗のおかげで、結果的にこんな良いものができました」と言えば、失敗の話から始めた意味が後でわかるわけです。
――――それが冒頭にお話された、わかりやすさを伝えるための順番、シミュレーションなど、そこにも繋がってくるお話でしょうか。
そうですね。文章ですと、起承転結というのがありますね。まず4つに分けて、まずこういう話から始まって、こう展開をして、ここでこのようになって、結論はこうです、と文章は順番にやってきますよね。話はそうはいかないんです。起承転結の「結」から始めるとか「転」からやるとか。そういう工夫をすると随分違います。
――――それも頭の中で「もう1人の自分」とシミュレーションするのですか。
そういうことですね。
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