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池上彰
フリージャーナリスト [ コミュニケーション ]
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池上彰
[インタビュー]
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「話す」「書く」「聞く」の3つの能力の磨き方(1)
2008.01.09
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商談、会議、プレゼンでいかにうまく伝えるか ――コミュニケーションを円滑にする極意
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□『伝える力』を生んだきっかけは「週刊こどもニュース」
――――こんにちは。主藤孝司です。“トップブレインあのベストセラー著者に聞く”今回は私がお届けしてまいります。今日は、なんと16万部を突破したPHP研究所から刊行されている新書『伝える力』の著者、池上彰さんをお迎えしております。どんな楽しいお話が聞けるか楽しみですね。池上さん、今日はよろしくお願いします。
はい。こちらこそ。
――――早速ですが『伝える力』を何故書こうと思われたのですか。
はい。これは何故書こう、というよりは出版社のほうから「こういうのをまとめませんか」という話があったからというのが正直なところですね。私はそもそもはですね、現代史とか、あるいは今の経済とか、そういうものを書きたくて、そういう仕事に専念したくてNHKを辞めたんですね。
――――そうなんですか。
ええ。私はもともと活字の人間でして。
――――そうですね。記者をやられていた。
ええ、そうですね。画面に出ていたからアナウンサーと間違えられるんですが、アナウンサーではなくて、取材をし、原稿を書く仕事が好きなんですね。その仕事に専念しようと思ったんですが、辞めていろんな仕事を始めると、やっぱりどうしても「週刊こどもニュース」のお父さん、という形でですね。
――――11年間されましたね。
はい。いろんなお話がありまして、その中で「週刊こどもニュース」はわかりやすくいろいろ説明していたよね、その秘訣を教えて下さい、というお話がありまして。それなら、という形でこの本がまとまったということですね。
――――そうしますと著者の池上さんの立場からすると、どういった方に読んでもらいたい、というのがありますか。
やっぱり若いビジネスマンですね。とりわけ今の若い人達というのは、取引先とか、あるいは目上の人に対してどのように話をしたらいいか迷っていらっしゃる方が大勢いらっしゃいますよね。
――――そうですね。私も部下に対してそうですし、上司に対しても困ることが多いですね。
ええ、そうですね。もちろん、例えば敬語の使い方とかテクニックの問題というのも確かにあるんですが、それよりはもっと心構え、基本的な考え方をしっかりすれば、たとえ拙くても相手に伝わるよ、というのをメッセージとして伝えたかったんですね。
――――なるほど。この本を書くにあたって、何か難しかったことはありますか。
難しかったこと。それはもう、全て難しいことばかりですが。
――――記者もされていて、ジャーナリストとして今も活躍されていて、書くこと、伝えること、あるいはお話することもプロでいらっしゃると思いますが、それでもやはり難しかったですか。
それは難しいですね。常に「これはどういう人が読むんだろう」と頭の中で想像するわけですよね。ビジネスマンはそれぞれのビジネスシーンで、どんなことを悩んでいるのかな、と。こういうところで、きっと報告書をまとめるのにも苦労しているだろう、あるいは相手のところへ行っていろいろと聴き取り調査するのも難しいことがあるだろうね、という場面場面1つ1つを考えながら、じゃあその人に向かってどういうメッセージを伝えたらいいだろうか、と考えていくのがやっぱり時間がかかりましたし、難しかったですね。
□話をする前に、頭の中でこんなリハーサルをしておこう
――――本を読ませていただいて、「すごくわかりやすいな」と思ったのが正直なところです。それは、身近な話題やいろいろなたとえ話がふんだんに盛り込まれているところなんですね。これは、意識してそういったものを増やされたのですか。
そうですね。わかりにくいものというのは、抽象的なことが多いわけですね。抽象論を言われても何のことかわからない。つまりこれはこういうことだよ、という具体的な話が入って初めて、それならわかるということが多いですよね。とりあえず読む人に対して身近な話題を探し出そう、あるいは具体的な話をいっぱい盛り込むと、そういうことならわかるよね、と思っていただけるのではないか、ということですね。そういうことだから、探すのもこれはなかなか苦労でしたけどね。
――――わかりやすい事例を探すのも大変だったと。
そうですね。
――――相手にへーっと言わせる、言ってもらう、それを増やそうというのが1つの「伝える力」、つまりわかりやすく自分の思いを伝える方法だということですが、この相手にへーっと言わせるコツは何かあるんですか。
コツね。難しいですね。へーっと言ってくれると、注目してくれますよね。つまらない話かなと思っていたらへーっと思うような話だと、そこで集中して話を聞いてくれますよね。だから自分の話をしっかり聞いてもらうためには、へーっが必要なんだなということですよね。そうすると、この人はこの話がわかるだろうか、この人はきっとこの話は知らないんじゃないかな、じゃあその話を持ち出すとへーっと言ってくれるかもしれない。でも、それを順番も考えないで、ただこんなことがあります、ではへーっと言ってくれないだろう。どういう順番で、どの時点でこの話を持ち出すとへーっと言ってくれるかな、ということをあらかじめシミュレーションするんですね。
――――そのシミュレーションというのは、自分自身の中でされるんですか。
そうです。自分の頭の中で、実際にそのお話をする前に組み立ててみるわけです。あーでもない、こーでもないと頭の中で試行錯誤するわけですね。
――――それは、例えば上司と話している時とか、ちょっとしたキャンペーンのプレゼンテーションをする時とか、そういう人も常にシミュレーションをしたほうがいいと?
そうですね。何度も何度もやっていますと、つまり頭の中でリハーサルしているわけですよ。実際にこうやってテレビカメラの前でリハーサルしてみて、じゃあやってみましょう、というのは収録ならできますが、仕事の場ではそうはいかないわけですから、頭の中で何度もリハーサルするわけですよ。リハーサルしてみると、これだと話がつながらないな、とかそういうことがわかりますよね。あるいはこれでは長すぎるな、と。それを何度もやっていれば、実際にビジネスの現場で話をするのはいきなりぶっつけ本番だけれども、実はその前にたっぷりリハーサルしている、ということですよね。
――――頭の中でリハーサルするのが、わかりやすく伝える1つのコツなんですね。もう1つ、頭の中でシミュレーションすることに関連して書籍の中にあるのが、「もう1人の自分を持つ」ということです。これが大きなヒントだと思うのですが、どういったことなのでしょうか。
そうですね。落語でいうところのボケとツッコミを、1人でやるということなんですね。「週刊こどもニュース」をやっていた時に、私が説明すると出演している子供に「どういうこと? わからない」と言われて初めて、そういうことがわからないのか、ということに気付いたんですね。なかなか皆が何がわからないかのかということが、私達はわからないわけです。自分で何かを言おうとする時に、自分の中にもう1人のツッコミ役がいて、「そんな事言ってもわからないよ」と、「で、何を言いたいわけ」というのをつっこんでくれる。そういう人間を、自分の中に育てるんです。そうしますと、さあリハーサルでどういう話をしようかな、こういう話をしようかな、というと、もう1人の自分が「それじゃわかんないよ」「それじゃ面白くないぞ」と言ってくれる。あるいは、この本を書く時にも自分で一生懸命キーボードを打って原稿を書いていますよね。「え、そんなんじゃわからないんじゃないの」というもう1人の自分が突っ込んでくるものですから、「あ、そうか」ともう1度書き直したり、ということをやっていますね。
――――それは、ちょっと難しい話になりますけれども、「もう1人の人格を自分の中で持つ」ということに近いのでしょうか。
そうですね。人格というよりは、むしろ本当に素朴な疑問を持つ。わからないことをわからないと言う素直な子供の自分を持つ、ということだと思います。
――――自分自身に対して、子供の自分が問いかける、ということですか。
そうですね。大人になりますとプライドがありますから、なかなか何がわからないとは言えないし。ありますよね。そういう時、本当に子供は素朴にわからないことはわからないと言ってくれます。自分の中で“プライドの鎧”で自分の身を隠さないで「わかんないよ」と平気で言える、そういう子供をもう1人自分の中に持つということだと思うんですね。
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