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伊藤守
株式会社コーチ・トゥエンティワン代表取締役 [ 能力開発 ][ コミュニケーション ]
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伊藤守
[インタビュー]
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コーチング・マネジメント/ ディスカヴァー・トゥエンティワン(1)
2006.01.29
[ TOPBRAIN RADIO ] あのベストセラー著者に聴く!
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部下を持つ方は部下の話を聞くということからはじめてみるとよいと思います
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「教育=コスト」から「教育=投資」
【主藤】 今回のゲストは、ディスカヴァー・トゥエンティワンから出版されております、8万部を突破しましたベストセラー、「コーチング・マネージメント」の著者でいらっしゃいます、伊藤守さんです。伊藤さん、今日は宜しくお願いします。
【伊藤】 宜しくお願いします。
【主藤】 マスター認定コーチというコーチの世界では第一人者である伊藤さんをお招きしていろいろとコーチングについてお話を伺っていきたいと思っております。伊藤さん、コーチングに関して簡単にご説明いただけますか?
【伊藤】 人を育てるという領域については、トレーニングとか教育という言われ方をします。そして、その中の一つとしてコーチングという手法があるわけです。
例えば、プロのスポーツ選手にはコーチがつき、彼らはアスリートですからハイパフォーマンスを引き出すわけです。同じようにビジネスマンにもコーチがついて激しい競争社会でいかに勝ち残っていくか、いい記録を出すか、まったく同じコンセプトでコーチをつける時代に入ってきたということなんです。
【主藤】 よく野球でも、監督がいてコーチがいて、コーチが直接選手を指導しますよね。ビジネスの世界でこのようなコーチの役割が今後求められてきているということですね?
【伊藤】 そうですね。例えば、企業のマネージャーといわれる人たちがいます。中間管理職と昔はいわれていましたが、その人たちの仕事はやはり部下の育成と教育というところにあるわけです。やはり、21世紀は人の時代ですから、どのように人を育成していくかが重要なわけです。
そもそも日本では、人の教育はコストだったわけです。景気が悪くなるとコスト削減ですから、経費として教育費が削減されていくわけです。アメリカの場合は、人の教育は投資だと考え、人が育っている企業は安定成長するということが非常にはっきりしています。
そのため、マネージャー層にどうやったら人を効率よく育てることができるかということについて、コーチングの手法をお教えするというのが一つの仕事になっているわけです。
【主藤】 コーチングという言葉は、ここ2,3年、急速に脚光を浴びてきていますね。この手法自体はもともとあったと思うのですが、コンサルティングやアドバイス、あるいは心理学的なこととはどのような違いがあるのでしょうか?
【伊藤】 コンサルタントの場合は答えをくれるわけです。「このように経営した方がいいですよ」という一つの指針や戦略を出してくれるわけです。しかし、それを受け取ってそれが実際に出来るかどうかは違うわけですよね。
例えば、猫の首に鈴をつけようとみんなで相談すると「そうだそうだ、つけよう」と会議で決まるわけですが、会議で決まったことが本当に実行されるわけでもない。上司が部下に「わかりましたか?」と聞いて、みんなが「はい」と答えたらそのとおりに行動するかというと実際にそうではない。
実際に決められたことを行動に移すプロセスをコーチングというわけです。ですから組織の行動が変わらないと、どんなにみんながわかっていてもだめなんです。
【主藤】 行動ベースまで、いわゆる実行べースまで考えてアドバイスをする、導くということですね。
【伊藤】 そういうことです。実際に行動が変わるまでコーチングするということですよね。ですから、今までの普通の研修ですと、3日とか4日とか1週間ですよね。
しかし実際には忘却の曲線がありまして、時間の流れとともに忘れていくため、使えないわけですよね。週に1回とか2回とか定期的にコーチングをすることによって、実際に行動するように変わっていくわけです。従来ですと一人の講師が2,30人を同時に教育していましたが、今は一対一でという流れになってきているんです。
それはなぜかというと人はそれぞれ違いますから、同じ教え方ではうまく行かないんですね。実は、コーチング能力が企業のマネージャー層に求められ始めているということなんです。実際にはこのような能力というのは習っていませんから。
【主藤】 そうですね。これは、コミュニケーションというテーマでもあると思うんですけれども、日本では特にコーチングの授業もありません。見よう見まねというか、友達づきあいの中から覚えたりとか、就職して会社の中で上司、部下と接する中で体験的に得ていったりと、これしかないですよね。
【伊藤】 例えば、こういうことも同じですよね。子供が生まれると自動的に親になってしまう、だからといって特に教育の方法について知っているわけではない。
だいたい今まで見てきたもの、自分がしてきた経験、本当にうまくいっている人はどんな行動をとっているかというデータに基づいて、人を教育しようという考え方がコーチングだといえますね。
コーチングを使うと自発的に組織が動き出す
【主藤】 なるほど。過去の事例やサンプルというバックボーンがあって、科学的に分析しているというか、パターンをある程度見極めていくということですか?
【伊藤】 7割方はそうですね。例えば非常に優秀な上司というのは、部下に「がんばってね」とあまり言っていないということがわかっています。「がんばってね」という代わりに「がんばっているね」と言っているんですね。「いる」というい二文字違うだけで、言われている人は受けとめ方が全然違うんです。
「がんばってね」と言われると「もっと、やらなくてはならない」と思うけれど、「がんばっているね」と言われると認められていると感じ、「自分からもっとやろう」という気になるわけです。今までは上から下に向かってやらせようと思ったわけですよ。今、いかに自発的に人が動くかということの方が注目されています。実はこちらの方がパフォーマンス、生産性が高いということですね。
【主藤】 「がんばってね」ではなく、「がんばっているね」のちょっとした違いが、やはり大きな違いになってくるんですよね。
【伊藤】 そうですね。大きいですね。すごく大きな違いになってくるわけです。
【主藤】 これを知っているのと知っていないのとは大違いですね。
【伊藤】 全然違いますよね。優秀なマネージャーは、例えば、営業の会社であれば、売り上げをあげた部下や、目標を達成した部下をほめようと思いますよね。でも、誰でも同じようにほめたりしないですね。上司が直接ほめた方がいい場合は、車で一時間行ってでも直接「よくやったね」とほめる。でも周りの人にほめられた方がいいという場合には、周りの人にその上司が電話して「彼のためにパーティーをやって欲しい」とか、全部個別に対応する。
だから何でもほめればいいというわけではない、しかればいいということではないのです。その人にはどうするんだというような個別対応、洋服のテーラーメードと同じで、今までのようにぶら下がりで教育するのではなく、一人一人に合ったサイズで洋服を着せるように教育しようという考え方ですね。
【主藤】 人の上に立つリーダー的な立場の方は、今のお話があったように人を見極める力と「がんばってね」ではなくて「がんばっているね」という声を掛けるテクニック、この二つの力を持つ必要が出てきますね。
【伊藤】 観察力がすごく大きいですね。それからもう一つ、質問する力が重要ですね。今までは命令したわけですよね。それよりはもっといい質問をするわけです。
今まで質問というのは知らないことを聞いたわけですが、コーチというのは質問を作る練習をするわけです。例えば、「どうしてそうなったの?」と聞くよりは、「何が原因だったと思う?」と聞いた方がもっと考えるわけですよね。WhyよりはWhatをもっとよく使う。WhyよりはHowを使う。
それから物事をはっきりさせるために、それは誰と一緒にやるのか、どこに影響が起こるか、とにかく視点をたくさん持たせたいわけです。
【主藤】 なぜそうなったのかついつい突き詰めてしまいがちですよね。
【川崎】 答えられなくなっちゃいますよね。
【主藤】 原因を探っていくのはもちろん必要なことかもしれませんが、それでとがめすぎるとやる気がなくなってしまいますよね。 逆に「なぜそうなったのか?」という言葉ではなく、「何が原因でそうなったんだと思う?」と表現を変えるということですね。
【伊藤】 そうすると人に考える機会を与えるわけですよね。今までは考える人と実行する人に分かれていたわけじゃないですか。上の人が「君は言ったとおりにやっていればいいんだよ」と。言ったとおりに行動しているのではとても競争に勝てない。状況の変化が激しいですから。
状況対応能力のある部下の育成というのが望まれているわけです。なんでも上司にお伺いを立てないと動けないようだと、場の変化についていけないのです。考える機会をずっと与えていくのに時間もかかりますから。
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