前回は、行動科学マネジメントの基本的な考え方を説明した。大きな特長として次の2点を挙げた。@従来のメソッドや既存の企業戦略との融合が可能であるため、企業文化や組織の再構築をすることなくスムーズに導入できること。A従来のマネジメントは「結果」に焦点をあててきたのに対し、行動科学マネジメントは、結果に直結する「行動」に焦点をあてるため、自発的行動を引き出すことができること。
行動科学マネジメントでは、組織は人間の行動の集合体であると考えている。目に見える行動に焦点をあてることで、誰にでもわかり、実行でき、効果を測定できるマネジメントを実現できる。そのため上位20%のパフォーマーのポテンシャルを継続でき、下位80%のパフォーマーをさらにハイポテンシャルに引き上げることができる。
今回は、行動科学マネジメントの具体的な方法論を、5ステップによって解説していく。
■行動科学マネジメントの5ステップ
行動科学マネジメントは、次の5つのステップから成り立っている。
ステップ1 「ピンポイント」
ステップ2 「メジャーメント」
ステップ3 「フィードバック」
ステップ4 「強化(リインフォース)」
ステップ5 「評価」
この5ステップを実践することによって、会社は劇的に変わる。平均レベルの社員はトップレベルへ、平均レベル以下の社員は平均レベル以上へと変貌を遂げていくのだ。劇的に会社が変わるといっても、難解なスキルやノウハウを必要とするものではない。明日からでも使える方法なので、ぜひあなたの会社でも実践し、その効果を実感していただきたい。それでは、それぞれのステップを順に解説していこう。
■ステップ1「ピンポイント」
−結果と直結している行動を発見−
最初に行うべきことは、「ピンポイント」を見つけ出すことである。ピンポイントとは、企業が望んでいる結果と直結している行動のことである。顧客増加、売上げアップといった目的があるなら、それらの結果に直接結びついている行動を見つけ出すのである。
ピンポイントを発見するためには、まず1日の業務内容を分解する必要がある。特に、業務の中で求める結果に直結する部分は、できるだけ細かく具体的な行動に分解し、1つ1つ書き出していく。どの程度まで細かく分解するかと言えば、例えば「ペットボトルの水をコップに注ぐ」 という行動の場合は、ペットボトルを見たことがない人でも、分解した行動のレパートリーを見れば行動できるというレベルまでである。この行動の分解方法は、次回以降の連載で詳しくお話しすることにして、ここでは例としてレストランのウェイターの行動を分解してみることにしよう。
(●図解 ウェイターの行動分解)
このレストランの目標が売上げアップだとすると、ウェイターの行動の中から売上げアップに結びつきそうなものをピックアップする。目安としては、5つくらいを拾い上げ、その中から2つか3つに絞り込み、それらを更に詳細な行動に分解する。そうして
分解した行動は、2つか3つに絞り込んだ「今日のスペシャルランチの説明」と「飲み物のお代わりを勧める」と、売上げアップという目標(結果)に直接結びつく行動(ピンポイント)だという仮説を持ったとしよう。
この行動がピンポイントであるかどうかを検証するには、2つのグラフで行動と結果を計測してみるといい。1つは時間の経過と行動の増減を表したもの、もう1つは時間の経過と結果の増減を表したものである。そして行動を増やしてみて、結果がどう変化するかを観察するのである。行動が増えたことによって、結果、すなわち売上げが高まったとすれば、その行動は結果に直接結びつくピンポイントである。行動が増えているのに結果が増えない、行動が減っているのに結果が増えているというような場合はピンポイントの行動ではないということである。
(●図解 行動と結果のグラフ)
いかにピンポイントの行動を見つけるか。それが最初の関門だ。感覚で捉えようとしてはならない。行動科学マネジメントは科学であり、いつ実験を再現しても、同じ結果が得られるものでなければならない。したがって、グラフを用いて正確に検証することが必要なのである。
さて、ここでひとつ注意しておかねばならないことがある。よく上司は部下に「売上げをアップさせろ」と言うが、「売上げをアップさせる」ことは行動だろうか。行動科学マネジメントの観点から言えば、これは行動ではない。「売上げをアップさせろ」と言われても、部下は具体的に何をすればいいのかわからない。
行動を定義するには「MORSの法則」を用いる。MORSの法則は「具体性の原則」とも呼ばれ、次の4つの条件から成り立っている。
@ Measure(計測できる)・・・必ず数値化できる行動
A Observable(観察できる)・・・誰もが見ることができる行動
B Reliable(信頼できる)・・・3人以上の承認がある行動(三者三様では信頼性に欠けるから。)
C Specific(明確化されている)・・・何をどうするといった明確な行動であること。(例えば、『 企画する』 『徹底する』という行動は、明確な行動ではない。)
「売上げをアップさせる」は、「MORSの法則」のいずれの条件も満たしていない。これを行動として表現するには、「この1年で、毎日、追加注文を100達成し顧客単価を10%伸ばす。」というように、具体的な数値を盛り込み、誰が見ても達成できたかどうかわかるようにしなくてはならない。具体性に欠ける表現は、判断する人によってブレが生じ、客観性を持たない。部下に指示を出すとき、ピンポイントの行動を増やすためのチェックシートを作成するときなど、リーダーは常にこの点に注意する必要がある。(続く)