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神田昌典
作家/経営コンサルタント
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神田昌典
[インタビュー]
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神田昌典が時代を読む!Part4-(2)
2007.09.06
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らせん的サイクルで先を読む
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――――このセス・ゴーディンさんの『The Dip』という本、私が解説文を書かせていただくことになって、もうすでに書いたのですが、これが先ほど言ったように私が今まで皆さんに3回に渡ってお伝えしてきた概念と非常に似ているんですね。
『The Dip』というのは何を言おうとしているかというと、英語で言うと「A Little Book That Teaches You When to Quit」とサブタイトル書いてあります。非常に薄い本で、何を教えてくれるかというと、「いつやめたらいいか」ということを教えている。そして括弧で「(and When to Stick)」と書いてあるんです。「When to Stick」というのは、「いつ粘り強くそこにこだわり続けなくてはいけないのか」ということを教える本なんだ、ということが書いてあるんですね。セス・ゴーディンさんという人は過去の本はずっとベストセラーですから、やっぱり概念を切り取るのが非常にうまいですね。
通常であれば、「Never give up」、「諦めるな」というようなことを成功法則として教えるわけです。ビジネスでも絶対に諦めるなと。「営業マンは10回断られてからが始まりなんだ」なんていう本もありますけど、そうではなくて、「ダメなら諦めなさい」と、そういう本なんですね。 この本を読んでみますと、非常に我々が今までこの番組を通じて言ってきたことと近い。というのは「When to Quit」、いつやめるかということを見極めなくてはいけない、というのはどういうことかというと、これも成長カーブの減速なんですね。前回まで「もし市場が100人の村だったら」という話をしてきましたが、要するに「いつやめなくてはいけないのか」ということですよね。
例えば市場がすでに成熟期に入ってしまって、もうすでに残された市場、新しい商品を買ってくれるという人は10人に満たないような状況になって、その中でなおかつ競争にさらされ、残りの10人を取っていくという状態になったら、これはとてもじゃないけど利益が上がらない。この段階でトップシェア、もしくはナンバー2のポジションを持っている会社にとってはまだ利益は出るんですけれども、それ以下の会社がこの成熟期になって、ナンバー3であるとか、ナンバー4であるということになると、とてもじゃないけど利益が出ない。 そこに参入しようとする会社というのは、あとを絶たないわけなんです。どういうことかというと、状況がわかっていないので、たまたま人から紹介されてこういうチャンスがある、こういう商品があるとなると、そこでこれだけ市場があるし、これだけ商品がいいから売れるんじゃないかと思って参入してしまう。そうすると頑張っても、頑張ってもうまくいかない。そういうタイミングで入った人というのは、まあ、苦労だけして、どんなに頑張ったところでうまくいかない。
ところがそういう会社が非常に多いということなんですね。それはなぜかというと、「Never give up」の精神で、「絶対成せば成る」という考え方でそれだけを考えてしまうと、どうしても根性論、精神論でそういうふうになってしまうんですけれども、どう考えても市場というのは数限られているという場合であれば、早めにさっさと諦めろと言いたいわけです。 ところが、そうではない人が非常に多いということが挙げられると思います。
これは笑い話では全然ないですけれども、例えば具体的な話をさせていただきますと、今日ある出版社さんから「これからネットでメールマガジンを発行する」と。これ大手なんですよ。「ホームページをこれから作るので、神田さんにコラムをお願いしたいんだ」と言うんですけれど、半分怒っちゃいましたね。怒っちゃったのは、「3年前から言っていたでしょう」と。
「もう3年前から言っていたけども、今からの時代というのはすでに携帯へ移る時代なわけだから、PCで今から参入してもとてもうまくいかないんじゃないですか」というふうに言ってしまったんですよね。それはなぜかというと、もちろん3年前にPCでホームページを立ち上げて、そこに対してオンラインマガジンを提供するのだったらわかりますけども、もうすでにいろんな出版社さんがそこに入ってきていて、それで今年になってみて雑誌の広告収入が落ちているからウェブを始めると。
もう遅いんですね。遅いというわけではないですけれども、あまりにもアクションが遅すぎるということが世の中の常であって、そういう会社というのは次に何を考えなくてはいけないのかと。もうすでに参入チャンスを失ってしまったわけですから、そこで一生懸命参入して、頑張ったところで決してうまくいくわけではないということなんですね。 だからこの「When to Stick」「When to Quit」というセス・ゴーディンさんの考え方からいうと、もう「quit」、もうやめるタイミングだ、ということがとても重要なんです。
「When to Stick」というのは、もしそういった会社さんがこれから携帯を含めたうえでのネットへの参入をするというのであれば、これはどんなに大変であっても「stick」する、すなわち粘り強く戦い続ける。粘り強く実現に向かって努力し続ける。こういうことが必要だと思うんです。
これもやはりサイクルということ、成長カーブのものの見方というのがわかっていないとダメで、ホームページというものの成長カーブがわかっていないとダメなんですね。ホームページも1998年ぐらいはまだ多くの会社さんが作ったこともなかった。それが2004年ぐらいからもう誰もが持っていなくてはおかしいという時代に入って、今はホームページというのは全面的にどこの会社もリニューアルを迎えるようなタイミングにきているわけです。それはどういうタイミングかというと、今からそこに対して力を入れていってどうなるかというと、新たに立ち上げるのはかなりきついですよね。 そうじゃなくて、もうそういうタイミングであれば、2、3年先を見据えたうえで「一体何に粘り強く今、対応していかなくてはいけないのか」ということを考える必要があるわけです。
このセス・ゴーディンさんは何を言っているかというと「When to Stick」ですね。これは単純に「ダメだったら諦めろ」ということではない。必ず価値があることには、辛いときがくる。これは諦めたほうがいいんじゃないかと思える時期がくる。これを「魔の谷」と表現をしていますけども、「魔の谷」というものが必ず価値のある物事にはつきまとう。そしてこの「魔の谷」というものがあった場合には、その大変過酷に見えるところを越えたときに、非常に大きなギフトが得られる、成功が待っているんだ、ということを言っているんですね。
これがどういうことかというと、私なりに解釈しますと、この「魔の谷」というのはどこにあるかというと、導入期から成長期に移るときに「魔の谷」があるわけなんです。だから先ほどの例でいうと、出版社さんがホームページを作って、そこでオンラインの出版をやりたい、オンライン・パブリッシングといいますか、オンラインで情報提供したい。これだともうすでに「魔の谷」を越えたどころか、どんどん行き止まりの状況から下っていくところに入っていってしまう。 そうじゃなくて、もしくは携帯での動画配信を含めた新しい展開をしたいということであれば、それはこの2、3年は「魔の谷」におぼれるかもしれない。 本当にビジネス情報というものを携帯で見るのか。ビジネスマンは携帯でビジネス情報を見て、聞いた結果、雑誌の購入につながるんだろうか。これは見えないことなんですね。予測も誰もできない。それでもビジョナリーで、ビジョンを持ちつつ、きっとそういうふうになると思ってしがみついた会社というのは、やっぱりその分野でのパイオニアになっていくわけなので、そこで大きく書店におけるシェア、そして雑誌、広告におけるシェアというものを伸ばすということが考えられるわけです。
だからセス・ゴーディンさんというのは、そういうことを理解しつつ、いつやめるべきか、いつやめるべきではないか、しがみつくべきかということを、この本で、非常に薄い本ですけども、お話されています。セス・ゴーディンさんと私はまだお会いしたことがないんですけれども、実を言うといろいろと縁がありまして、彼が日本で『バイラルマーケティング』というコンセプトを出したときに、ちょうど私は『口コミ伝染病』という本を出しまして、基本的には同じようなコンセプトだったんですね。 彼はバイラル、すなわちウイルスのように口コミは広がっていくということを言っていて、僕はそういった本が出るということを全く知らずに『口コミ伝染病』という本を書いて、同時期に出て、同じように売れていったということがあります。
それから『パーミションマーケティング』という考え方も僕に非常に近い。感情マーケティングに近いので。感情マーケティングというのは、売り込むのではなく、お客様から「あなたの商品が欲しいよ」と言わせて手を挙げさせる、そういうことが重要なんだということを自分の本『あなたの会社が90日で儲かる!』の中で打ち出したんですけども、それと非常に似たようなことを言っています。この『The Dip』という本についても「しがみつくのだけはやめなさい」という話も、僕は『60分間・企業ダントツ化プロジェクト』という本の中で、Sカーブの話も含めてかなり詳細に書いておりまして、また同じようにシンクロしてしまったかな、なんていうふうに思っています。
『The Dip』の僕の解説文は何ページぐらいでしょうかね、十数ページ書いたんですが、まさかセス・ゴーディンさんに翻訳して伝わるとは思っていなかったんですが、それが翻訳して伝わって、編集者のほうから「パーフェクトな解説だ」というふうに言われたと聞いております。またこのセス・ゴーディンさんとお会いできる機会が、きっとあるのではないかなというふうに考えています。
それでは、今回はセス・ゴーディンさんの新作の本をきっかけとしまして、サイクル論なのか、それとも直線的に成長するという論なのか、このあたりの違いについて述べてきました。次回はそれに加えまして、私が今回アメリカへ出張して帰ってきましたらそのときに、また同じようにサイクル論なんだなということを感じたことがございますので、それについて皆さんと情報を共有したいと思っております。
はい、神田さん、どうもありがとうございました。
――――ありがとうございました。
「神田昌典が時代を読む!」次回もお楽しみに。
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