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天外伺朗
工学博士(東北大学)。元ソニー上席常務。 [ 経営 ]
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天外伺朗
[インタビュー]
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組織を支えるのは揺るぎない「信頼関係」(3)
2007.09.06
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成果主義では到達できない新マネジメント論 ――「長老型マネジメント」とは何か?
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□上司・部下を共に活性化する「やり過ごしマネジメント」の威力
――――最近は若い会社経営者が増えてきていると思いますが、はなかなか自分で徳を積むのは難しいように思います。そういった企業においては、「長老型マネジメント」以外に別の方法があるということですか?
ええ。「長老型マネジメント」は目標として持っていただきたい、と。それからそこに至るまで自分を高めるということが、経営者にとっても一番重要なことだろう、ということなんです。 「では何ができるの?」と言った時に、今僕がお薦めしているのは「やり過ごしマネジメント」。経営者に“やり過ごし宣言”をしてもらっています。
――――「やり過ごしマネジメント」とはどういうことでしょう?
社長さんが従業員もしくは幹部に向かって、自分の命令がもし違うと思ったらやり過ごしていいよ、ということを宣言する。これを“やり過ごし宣言”と言っています。その“やり過ごし宣言”をどんどんやって下さい、というわけです。会社によってはそれをやった途端に潰れるかもしれない。けれど会社によってはものすごく活性化される。
――――例えば私が上司として部下に指示をしても“やり過ごし宣言”をしていた場合は、それが的確でない指示であれば、次の日「あれはどうなった?」と聞いた時にやり過ごされている可能性があるわけですね。
ええ、そういうことです。
――――上司にとってはとても厳しいことですね。
ところが、実は調査をしてみると、ほぼ6割の職場でやり過ごしが日常茶飯事で行なわれているという結果が出ているんです。それが現実なんですよね。だから指示命令通りに物事が進んでいるというのは錯覚なんです。 逆に言うと“やり過ごし宣言”をしていい会社というのを、一応本の中でも説明していますが、1つは社長から見て「うちの社員はボンクラばっかりだ」と思うようなでは“やり過ごし宣言”をするとすぐ破綻する。「結構優秀なのがたくさんいて助かっている」と思っている会社でないといけないわけです。やり過ごしが現実に起きているところでないといけないですね。社長もある程度それがわかっている、という会社が“やり過ごし宣言”をするとものすごく活性化します。
――――会社として権限を委譲する、ということとは違うのでしょうか?
権限を委譲する、というのはオーソライズするわけですよね。“やり過ごし宣言”のすごいところは従業員がリスクをとらなきゃいけない、やり過ごしをするというリスクを取らなきゃいけないことです。これは社長の意見が違うと思うのですがどうでしょうか、と聞きに来るのでは駄目なんですよね。それを黙ってやり過ごすところが一番大切なところで、そこで従業員がリスクを取ることによって従業員も成長するし、全体がものすごく活性化してくる。それができると、次にだんだん自分の人間性が上がってきて、「長老型マネジメント」ができるようになる。そのプロセスもこれに書いてあります。
――――会社組織の中の経営者、管理職、社員といった全体のメンバーの構成によって、マネジメントのやり方は違っていい、ということですね。
同じ長老型でも、同じやり過ごし型でも、具体的には全員違うと思うんですよね。こういうやり方でこうやりなさい、ということを私は一切言っていない。ただ“やり過ごし宣言”というのは宣言としてそれを従業員ないしは幹部に言うことに1つの意味があって、社長の覚悟であるし従業員の覚悟でもある、と。それを誰かが悪用したらとんでもないことが起きるわけです。それも覚悟するということですから。
――――経営者には個性豊かでありながらも、すごく想いが熱い方が多いと思いますが、社員と上層部の中間に立つ管理職となると、熱い人もそうでない人もいて差があるのではと思います。この方々がマネジメントで育っていくためには、どうしたらいいのでしょうか。
そこが結構キーでしてね。先ほど内発的動機でないと“燃える集団”にならない、というお話をしました。自分で全てコントロールしていないと燃えないわけですよね。育たないわけです。ですから“やり過ごし”が必要なわけです。中間層の温度が低いというのは、やはり自分でコントロールできないところが多いから温度が下がってしまうわけです。素質を持った人がいたとしても、どうしても温度が下がっちゃうんですよね。
――――つまり経営者と管理職とのコミュニケーションにおいても、やり過ごしをしていいということですか?
もちろんです。それがキーですね。
――――なるほど。 本日は『マネジメント革命』の著者、天外伺朗さんにお話を伺いました。この時代、“燃える集団”という言葉を聞くと少し古いかなと思われる方もいるかもしれませんが、内面的に自分をかき立てるものはやはり使命感ではないでしょうか。成果主義が導入されて久しいですが、どれだけ結果を出したかということよりも、やはり仕事に自分なりのやりがいというものがないと続かないのだ、ということを、今日のお話をうかがって感じました。 天外さん、ありがとうございました。
ありがとうございました。
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