□いい距離感のある関係を築く「法則」の見つけ方――――うまくいくコツを「発見」されたというのは、どこでどんなこと発見されたのでしょう?
例えば人間関係がとてもうまくいっている人を見たときに、「あの笑顔に答えがあるんじゃないか」と。例えば、ただ笑っているのではなくて含み笑いが伝染するように笑っていたら、「あの笑顔を次は練習しよう」という感じです。自分がそれをやったとき、初めて話すときの緊張感がその笑顔で話しだすと相手に移っていって、「あっ、これは法則かも」とわかる。さらに例外はないかなと探してみたり、そうやって発見している感じですね。――――例えばその法則に気づいたとしても、普通の人はなかなかそれを実践しませんよね。山アさんは「こういうことをしたら人に好かれるかな」「いいお付き合いできるかな」とすぐ実践されるのですか。
そうですね。だから例外はないかなと考えます。いいと思ってやっていたら相手を傷つけていた、ということはないのかなというように、逆の角度からも見ないとダメではないかと思うんです。法則性として確立する前に必ず例外をきっちり探して、それがなければ「これだ」と。「じゃあ、標準装備」みたいな感じですね。――――なるほど。それを繰り返しやってきて標準装備された法則が本になって世に出たということですか。これは、読まないといけませんね。
いえいえ、案外照れくさくて。これを友達が読むと「あっ、いつもやっているよね」みたいに気付かれてしまう。――――自分の習慣みたいなものは、自然と出ますよね。
そうすると友達からは冷やかされたりしますけど。――――今回、「五つ星のお付き合い」としてどのように法則を分けたり作ったりされたのでしょうか?
「これが法則であろう」ということ。それから法則はインパクトがないと人に宿っていかないような気がするんです。人って感動したり驚いたりするとセーブボタン押した形になるみたいで。――――セーブボタンですか?
はい。脳ミソに記憶されるらしいんですね。なので、1つの法則を違う角度でまた添えていくようにしました。例えば「あなたは絶対すごい人になる」というところをいくつか補足して「素敵な未来を言い当てる」とするんです。これで法則としてセーブさせることができるのではないかと。合わせて例を出して、その例で「ああ、ある、ある」という実体験の中でまず認識してもらう。それを詳しく解説して、最後にインパクトのあるワンセンテンスで記憶に残す、という流れにしました。――――「今、未来の君が見えた」というのもありますね。これを口に出してみると、よりイメージが強くなりそうです。
そうですね。イメージとして、ドキッとしてほしい。――――今回の本はあっという間に読めてしまいましたが、本の装丁や判型が通常とちょっと違っていて、一回り小さくて読みやすくなっていますが、そうした作りもかなり工夫されていますよね。
そうですね。デザイナーさんといろいろと話し合って、その方がすごく力を入れて作ってくれた作品になりました。――――表紙には五つの金の星とそれから金色、銀色の人が握手していまして。
はい、はい。――――すごくかわいらしくて、帯の言葉もあえて縦書きになっていたりと、すごく工夫がされていますから、本屋さんで本当に目立ちますよね。
ありがとうございます。□「長所しか見えない距離感」があるのを知っていますか――――お付き合いの仕方で、「気を使う」というのは、なかなか行動として続かないものです。気くばりしたりとか、いいお付き合いをしようと努力したりしても、連続性がなくて相手に理解されないと認知されないですよね。
そうですね。――――意味がないわけではないですけれど、効果にならないのでは。
でも本当にうまくいっているお付き合いの中の気遣いというのは、気づかないから最良なものになっていくんです。――――でも努力する側からすると、それは気づかなくてもいいけれど、相手に影響を与えるための工夫が必要なのでは?
そうですね。一番いいのは、さりげなく深層意識に触れていくことだと思います。――――失敗されたこともあったと思いますが、最近ではもう失敗されない?
いや、いや、いや、いや。次の本が出るとしたら、失敗したことが次の法則になると思います。よくあった失敗は「言い損じる、言い間違う」。「ああ、そんな意味で言ったんじゃないのに」ということ、ありますよね。それを「そうじゃなくてね」と言い直そうとすると、さらに悪化していくんです。そういうことは、やはりごく最近でもありますよ。――――そもそも人付き合いで「深く関わるのが怖いな」という人もいると思うんです。お互いの距離が埋まってくることを逆に恐れてしまう人がいる気がします。ですから、ちょっと世間話をするだけで浅く付き合う人もいますよね。山アさんにとっての人付き合いに対する考え方をうかがえればと思うのですが。
そうですね。僕は友達という距離感が、昔はちょっと近過ぎたなと思っているんですよ。だから近過ぎて傷つくことがお互いにあり過ぎた。友達とうまくいかない、と勝手に思っていたんですけれど。
「親しき仲にも礼儀あり」という言葉が昔からあって、知ってはいたのですが、要はもう少し距離感が離れたところで緊張感を持つべきだということがわかってきたんです。つまり「冬山のハリネズミ」。寒いからといってひっつくと、ハリネズミ同士なので痛い。離れると冬山なので寒い。これを繰り返して、痛い、寒い、痛い、寒いという中で、一番いい距離感を見つけるというお話があるんですけれど、つまりその人の長所しか見えない距離感というのがあると思うんです。――――「長所しか見えない距離感」ですか?
近づき過ぎると、お互いに人間として持っているものがいろいろと見えてしまいますよね。それでも近いのが友達だと思っていたために、踏み込み過ぎていたような気がするんです。でもその人の長所しか見えない距離感が、実は相手からも自分の長所しか見えない距離感になっていて、気持ちいい関係がつながっていくんです。そうすると自然と生まれてくるのが、礼儀やリスペクトですよね。一人の人の人生だという価値観のもとに、見られるようになってきた。僕はどちらかというとちょっと気が抜けて「そんなこと、言わなければよかったのに」ということを、後で後悔するタイプだったので。――――近くなり過ぎたけれど、そこで上手な距離感を作れるようになったと。
そうですね。離れ過ぎるとやはり寒いですもんね。――――寂しいですよね。
一人きりになってしまいますから。その距離感を見つけていったような気がします。――――人それぞれ価値観があると思いますが、その価値観に合わせて距離が違ったりするのでしょうか?
そうですね。すごくデリケートな人って、やはりすごく近づかれることを恐れると思うし、この人はデリケートだなと思った瞬間に僕も近づくのが怖くなりますね。そうすると「一番いい距離感はどこかな。ああこのへんが一番気持ちよさそうだ」と探る。そうすると相手も気持ちよさそうなんです。――――例えば距離が近くなり過ぎてしまったり、実際に摩擦を起こしてしまったりしてうまくいかなくなることもあると思うのです。実際にそういう方とあえて距離を置いたり、会わないようしたりすることはないのですか?
人はどんどん、どんどん変化していくと思うんです。10年という時間があれば確実に人は変化するので、嫌いになってしまうときもありますよね。だけどそれもそのときのその人であって、時間の中ですごく素敵な人になっていくこともあると僕は思っているんですね。それを自分の中にも信じたい。自分が変化することも、その人が変化することもです。ですから、僕から縁を切るということはないですね。でも切られることがあるとしたら、それは仕方がないことだと思っていますが。(3)に続く