□アサーティブとは?――発展的、かつ協調的な自己主張――――本日のゲストは『たった一言で相手を動かすアサーティブ営業力』の著者、大串亜由美さんです。こちらの本はダイヤモンド社から刊行され、1万5千部のベストセラーとなっております。本日はよろしくお願いいたします。
よろしくお願いいたします。――――早速ですが、本の中に「アサーティブ」という言葉が出てきますが、この言葉は最近ビジネス書でよく見かけるようになったと感じるのですが?
ちらちら出だしましたよね。――――ですから半分ぐらいの読者は耳にしたことがあるのではないでしょうか。そもそも「アサーティブ」という言葉はどのような意味なのでしょうか?
辞書を引くと、「断定的」とか「主張がある」とか「自己主張」などと、たぶん訳されると思いますが、日本では自己主張ってあまりいいイメージがなかったりするので、私は頭に修飾語を2つ、いつもつけています。――――どのような修飾語ですか?
1つは「発展的な」自己主張。つまり明日会える関係。自己主張して相手を殴り倒しても意味がないですからね。
もう1つは「協調的」。要は、相手に通じる単語が選べるかとか、相手が聞きたい角度から話ができるかとか、伝わる自己主張という意味で、「協調的」というのをつけています。すがすがしく言い切る、という感じでしょうか。――――自己主張して、そのうえその自己主張に「イエス」と言ってもらわないといけないんですね。
そうです。「イエス」を目指します。
でも、もしかしたら「ノー」が最善の答え、ということもあり得るので、「イエス」100パーセント神話には、ならないほうがいいかもしれません。目指すのは「イエス」だけど、「ノー」もあり、と余裕があることが、いわゆる「アグレッシブ」という戦闘的な主張と、発展的かつ協調的な主張の違いだと思っています。――――「アサーティブ」という言葉が世の中で広がったのは、いつ頃なのでしょうか?
悩ましいところなんですけれど、実は5、6年前に週刊ダイヤモンドさんで連載をしようと思ったとき、「アサーティブという言葉はまだ認知度が低いからやめよう」って、没になった経験があるんです。ベースはアサーティブで書きましたが。
ところが1作目の本を昨年出したときには、「アサーティブでいってみよう」という話になったので、一般に聞いたり見たりするようになったのは、おそらくここ2年ぐらいじゃないですかね。
――――これから少しずつ少しずつ世の中に広がっていくと、大串さんがアサーティブの伝道師と言えるのではないでしょうか。
もっとずっと昔から学問的に学んでいた方はいらっしゃると思いますが、ビジネスのスキルとして取り上げた方は、そうそういらっしゃらなかったと思います。□社会も会社も教えてくれない「自己主張」の上手なやり方――――「アサーティブ」という言葉を使って本を出すことになったきっかけは何だったのですか?
普段は、研修を仕事としているんです。研修会場でアサーティブだとか交渉だとかプレゼンテーションだとか、いろいろな研修していますが、ほんのちょっとの言い方で相手にうまく伝わってない人とか、「そうは言っても上司に怒られると……」とか、なんだかもったいないなあ、と思う人に遭遇する機会がよくありまして。でも、この1つの考え方がきちんと理解されると、みんなが気持ちよく仕事ができるんじゃないかと思って取り上げました。――――確かに会社で仕事をしていると、上司は部下に対して「何々しなさい」と言って、部下はそれを聞いて活動して報告する。すると、部下が自己主張する機会はあまりないですよね。それに同僚に対しても、あまり自己主張することがないかもしれません。
「自己」とつくと、日本語としてはきつい印象があるかもしれませんが、「メッセージを発信する」とか、「ものを頼む」とか、あるいは「ときに反対側の意見を伝える」とか、もう少しベースを基本的な行動レベルにすると、普通にしていることだし、したいことだと思うんです。ただそれが1つの塊となると、すがすがしい自己主張になる。例えば相手が上司であっても、上司に動いてもらわないと自分の仕事は前に進まないので、お願いするのもある意味、主張ですし。
私はそう思っているので、ただ戦闘的な、先ほど申し上げた「殴り倒す」型が自己主張ではないということを主張したいなと思っています。――――これからのビジネスマンの処世術としても、すごく大事なことではないでしょうか。
そう思います。これがきちんとできると自分も気持ちがいいし、相手側も逆に気持ちよく仕事ができるんじゃないかな、と。――――一方で、そういったアサーティブ的な部分、自己主張する部分というのは、裏を返せば会社が教えてくれない部分のような気がしますね。
そうですね。本の中にも書きましたけれど、例えば研修だと「アサーティブ」はときに自分自身をアピールしたり、人に「ノー」と言ったり、反対意見を表明したり、あるいはものを頼んだり、仕事の場ですごく必要な要素なんです。しかしさじ加減がすごく難しくて、あまり強く出ると「嫌な奴だ」という印象になるし、でも引きすぎているとものごとが前に進まない。
これほど難しくて大事なことなのに、おっしゃるように習ってきてないので、やろうと思うと変に肩に力が入っちゃうんですよね。――――実際、一歩間違えると嫌みになったりしますよね。言わないでいい一言を言ってしまったり、あいまいに言ってしまったりすることがありますが、それは工夫したり、勉強したりすることで修正できるわけですか?
この本ではそのスキルをご紹介しているので。基本的な考え方は「相互尊重」ですね。これがアサーティブの基本なんです。自分も尊重するし、相手も尊重する。
でも「尊重しています」と言ってもなかなか伝わりにくいので、ちょっとしたものの言い方だとか、順番だとか表情だとか、そういった形から入っていくと、比較的楽にできたりもしますから、そういうことについて情報提供しています。皆さんから「やってみたら言えました」と、報告をいただくことが意外に結構ありますよ。――――私も本を読ませていただいて、これはできているな、と思うものも結構あったのですが、それよりも、できていないというか、「えっ、それって大事なことなんだっけ?」と思うことの方が多かった気がします。
なるほど。おっしゃる通りで当たり前のことが多いんですけれど、悩ましい場面って、当たり前のことが言えない場面なんですよね。あとから振り返ったときに「あのとき、ああ言えばよかった」とか、「なぜあの一言、言っちゃったんだろうか」とか。冷静になればちゃんとした言葉が選べたはずなのに、当たり前のことが当たり前に言えない場合が多いのが、おそらくビジネスマンの悩ましいところで、そういうときにこういう本の引き出しがあると、「あの順番で言ってみようか」と対策が立てられる。それだけでも冷静になれますから、それが本や研修の大きなメリットかなと考えています。――――本の冒頭に出てきますが「すいません」という言葉を使う人がすごく多いですよね。会った方にいきなり「すいません。今日はありがとうございます」などと言われると、大意はないのだろうけど、何か違うなという感じがします。
自分の気持ちに一番近い言葉を、相手を傷つけたり、場を混乱させたりしない限りは、きちんと言っていくのがルールだと思うんですね。だから、ありがとうと思うときには「すいません」ではなく、「ありがとう」と言ったほうがいい。謝りたいときは「ごめんなさい」とか「申し訳ございません」のほうが、自分の気持ちに近いはずです。たくさんの人がオールマイティな言葉で手を抜いているように思えるので、私は一人静かに「すいません」撲滅キャンペーンを全国展開しています。――――「すいません」撲滅キャンペーンですか!
是非今日、加入していただけたらと思っています。――――ひとつひとつの言葉の中で、何気なく使っているものを修正するだけで、相手への相当伝わり方が変わるということですね。
かなり違うと思います。「これしかありません」と言われるのと、「これがご用意できました」と言われるのは、ずいぶん印象違うと思いますし、「お茶でいいです」と言われるとがっかりですけど、「お茶がすごく飲みたいです」と言われると、こちら側も誠意が伝わりますよね。一言でずいぶん違います。
(2)に続く