|
|
鈴木貴博
百年コンサルティング株式会社代表取締役社長 [ 仕事術 ][ 経理・会計 ][ 経営 ][ インターネット ]
|
|
|
|
鈴木貴博
[インタビュー]
|
戦術論ではなく戦略論に強くなろう(1)
2007.02.25
[ TOPBRAIN RADIO ] あのベストセラー著者に聴く!
|
|
企業の寿命が30年ではなく100年続くためにはどうしたらいいのか
|
優良な社員が多い会社ほど業績が悪い
川崎 本日のゲストは講談社から出版されている2万部を突破したベストセラー『アマゾンのロングテールは、二度笑う』の著者でいらっしゃいます鈴木貴博さんにいらしていただいています。
高城 鈴木さん、本日はよろしくお願い致します。
鈴木 よろしくお願い致します。
高城 早速ですけど、鈴木さんの最近のご活動の中で私がすごく興味を持たせていただいたのが“百年コンサルティング”という会社の社名なんですけども、そのお名前の由来を最初に教えていただいてもよろしいでしょうか。
鈴木 百年っていうのは企業の寿命に由来するんですけれど、企業の寿命は30年と言われているんですね。企業の寿命が何で30年かと言うと、1つのビジネスは大体30年ぐらいのサイクルで寿命が来るんです。時代が変わるとか技術が変わる、ないしは消費者の趣向が変わるとか。大体どこの会社も30年ぐらいで寿命を超えるんですね。30年ではなく100年続くためにはどうしたらいいのか、というと、要は新規事業、成長事業を見つけていかなきゃいけない。事業が上手くいっている会社にもっと新しいことをやっていきませんか、といったことを支援するためのコンサルティング会社ということで百年コンサルティングという名前が付いているんです。
高城 企業の寿命が30年ということは社会人になって20歳か22、3歳で入社しますよね。で、50過ぎまでいると会社は寿命になっちゃうんですよね。
川崎 一番苦しいですね。その時こそ会社が大きくなっていて欲しいような気がしますね。
鈴木 実際はもうちょっと早いんですよ。というのは会社の創業期に新卒で入るのではなくて、会社がわりと順調になって人を採らなきゃいけないというときに新卒を採るわけですから、入社した時には会社が大体14年とか15年になっているわけですね。そうすると寿命の時期は40歳前後。その時に日本の企業っていうのは35歳を超えるとなかなか転職をさせてもらえないんですね。自分が転職をしたくても大企業で40歳、45歳っていう方々はなかなか採ってくれない。ということはその寿命を迎えつつある会社を自分で何とかしなきゃいけない。それが会社の寿命とサラリーマンの関係なんですね。
高城 大学の人気企業ランキングってあるじゃないですか。あの中で1位が商社とかメーカーってよく言いますけど、それも10年経つとだいぶ変わっちゃうんですよね。そういった部分でそれを維持したり変えることはすごく難しいなと思ったので、そういったテーマに挑戦されるのはやりがいのあるテーマですけど、大変ですよね。
鈴木 僕らも大変ですけど、中にいらっしゃる社員の方々が多分一番大変な気持ちでいらっしゃると思うんです。何とかしなきゃいけない、でもどうしていいか分からない、と。そういう状況の会社は今、日本にすごくあるんですね。これを何とかしていきたいなという思いが僕の中にあります。
川崎 普段、自分の働いている環境で部下がついてこないとか、上司がどうもなんていうことで悩んでいるよりも会社に目を向けなきゃいけない時期というのがあるんですね。
鈴木 そこがすごくポイントなんですよ。というのは僕もいろいろコンサルティングをしていて気が付いたことなんですけれど、世の中にはすごく優良な社員が働いている会社ってあるんですね。ところが面白いことに優良な社員が多い会社ほど、実は業績が良くなかったりするんです。部下のマネージメントが上手いとか、取引先にすごく信頼されている、そういう社員が多い会社っていうのはこと業績になると優良じゃないんですね。
高城 不思議ですね。
鈴木 というのはですね、土俵が悪いんですよ。自分の戦っている土俵が沈みかけているとか崩れかけている。昔はその土俵っていうのは良い土俵で非常に儲かる土俵でその会社をずっと支えてきた土俵だったんですね。ところが会社の寿命の30年近くなってくるとその土俵っていうのは崩れてくるんですよ。ところが面白いんですけど、優秀な方々っていうのは土俵が崩れていても何とか戦えちゃうんですね。足場が悪くても、『私』の力で何とかなっちゃう。だから優秀な社員がいっぱいいて土俵の悪いところで一生懸命戦っているんですよ。
高城 じゃあその優秀な社員の方が土俵を変えるともっと高いパフォーマンスを上げるかもしれないんですかね。
鈴木 その通りです。
イトーヨーカドーが駄目になった2つのファクト
高城 その辺りの内容が今回のベストセラー『アマゾンのロングテールは、二度笑う』の中に8つのテーマで書いてありますね。この中で言うと「50年勝ち残る」ということで書いてありましたけれども、ちょっとこの辺りのお話をお聞きしたいんですが、私が一番興味持ったのは「なぜイトーヨーカドーは駄目になったのか」というテーマなんです。
鈴木 世の中で一番優良な社員が働いていらっしゃる会社は多分イトーヨーカドーだと僕は思うんですね。そのイトーヨーカドーの業績がなぜ駄目なのか、というのが先程申し上げた優秀な会社ほど実は業績が悪いケースの日本で言うと一番シンボリックなケーススタディだと思うんですね。
高城 そもそもイトーヨーカドーが駄目になったという認識は世の中の人には無いと思うんですよね。実際に本の中には書いてあるんですけど、それをここで出したのはそれだけ収益性が高くないってことなんですか。
鈴木 2つファクトを見ていただくとわかると思うんですが、1つのファクトはイトーヨーカドーの業績っていうものはちゃんとホームページにも公開されてますし、ニュースにもなったりするんですが、いわゆるGMS、巨大なスーパーマーケットの部門に関して言うと極めて苦しい状況がここ2,3年続いています。それからもう1つ。経営コンサルタントとかビジネスマンの方々に実際にお店に行ってみてどうですか、と。まず自分のご家庭がお店に行きますか、行ってみて賑やかだと思いますか、というところで見ると、今どういう状況になっているのか見える筈なんですね。
川崎 本の中ではコンサルティングという見地からも書いていらっしゃるんですが、ご自身が店舗に出向かれた時のご経験も語っていらっしゃる。それを聞いてすごく分かりやすいな、と思ったので買い物カゴの話を伺ってもいいですか?
鈴木 はい。イトーヨーカドーさんの買い物カゴっていうのは普通のスーパーマーケットと同じような買い物カゴでキャリーがありますからそれを上下に2段乗せることが出来るんですね。結構幅広く良い商品がいっぱい置いてあるので、そういう意味ではもっともっと買いたくなるんですね。ところが駐車場までの距離が長いんです。ですからカゴがいっぱいになってもうちょっと買っていこうとすると、遠い駐車場までの間往復するのに疲れちゃうから、大体カゴがいっぱいになった段階でお客様って買い物を終了しちゃうんですね。それがちょっともったいないね、という話が本の中で書いてあるんです。
川崎 例として書いていらっしゃるんですけど、イトーヨーカドーのグループ全体を見ると実は収益がセブンイレブンだったりコンビニエンスストアだったり。
鈴木 非常に順調なところがある。
川崎 そういう違う業態にもちゃんと目を向けなきゃいけない。現在やっている業態の中でも買い物カゴ一つにしても、工夫がちょっと足りてないんじゃないか、というような。
鈴木 ところがここにものすごく落とし穴があるんです。優秀な社員っていうのはそういうことに気が付いて「じゃああの買い物カゴを大きくしよう」とか「通路を通りやすくするために広くとろう」とか、その方がいっぱい買ってくれるんじゃないかという風に思いますよね。その工夫をするのは優秀な社員の陥りやすい落とし穴なんですよ。
川崎 駄目なんですね。
鈴木 と言うのはそれをやっているだけだと、1人1人のお客さんの客単価は上がるかもしれないですけど、イトーヨーカドーさんが抱えている今一番の問題は顧客の数が減っていることなんですね。これは日本全体の話なんですけれど、今、顧客層は三極化しているんです。富裕層と言われる方々が増えていますよね。それから最近は下流社会って言う言葉が社会のキーワードになってたりするんですけれど、フリーターであったり収入が多くない方々っていうのが人口的に言うと今ものすごく増えてきている。以前は一億総中流と言われてたので、日本人は全部イトーヨーカドーさんのお客さんだったんですよ。ところが今世の中が三極分化した結果、イトーヨーカドーさんで買い物出来る人口というのが全体的に減っているんですね。これをどうするのかっていうことを考えるのが戦略論であり、土俵論なんです。今来ているお客さんにもっと買ってもらうっていうのはどっちかって言うと戦術論。この戦術論に非常に強いビジネスマンの方達にもっと戦略論を考えて欲しい、というのがこの本を書いたもともとの思いなんですね。 高城 ビジネスをやっていると何となく分かるんですけど、なかなかそれは現場に言っても分からない部分ですよね。実感しようとしても創意工夫をして改善しようとしてしまうのが日本人じゃないかなと思うんですよね。
鈴木 私も実際にネットビジネスをやる事業部にいて、実際にビジネスをやってみて分かったんですけど自分でやってる本人はなかなか変えられないですね。どうしても目の前の仕事をどんどん回して目の前のお客さんを満足させていかなきゃいけない。1人のビジネスマンが普段そういった目の前のことを考えつつ、1歩引いて10年後のことを考えるっていうのは非常に難しい。そこがやっぱり分業が必要なんでしょうね。
|