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藤野英人
レオスキャピタルワークス株式会社代表取締役社長兼CEO [ 能力開発 ][ 経理・会計 ][ 人材採用 ][ 経営 ]
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藤野英人
[インタビュー]
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「細部に神が宿る」−小さなところを見逃すな(1)
2007.04.08
[ TOPBRAIN RADIO ] あのベストセラー著者に聴く!
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人を教えるということは自分のライフワークだと思っています。
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居眠り対策から生まれた本
川崎 本日のゲストはPHP研究所から刊行されている5万部を突破したベストセラー「スリッパの法則」の著者でいらっしゃいます、藤野英人さんです。
高城 藤野さん、本日は宜しくお願い致します。
藤野 宜しくお願いします。
高城 私は藤野さんとゴールドマン・サックス時代に何度かお目にかかったことがあるのですが、先ほど名刺交換をさせて頂いたら「レオス・キャピタルワークス」とお名刺の中に点字が打ってありまして。
川崎 浮き彫りというか。
高城 「レオス」というのは、どういう意味ですか。
藤野 ギリシャ語で「流れ」という意味ですね。古代ギリシャ語で「流動性」という意味があるらしいのです。私たちがやりたいことは日本に全てあると。資産もあるし、知恵もあるし、人材もあるし、何もかもある。でもそれがうまくつながってないではないかな、流れていないのではないかなと思って、それを知恵とお金をつなげる仕事をしたいと思って「レオス」という名前にしたのです。
高城 なるほど。ギリシャ語だったのですね。藤野さんといえばカリスマ的なファンドマネージャーだったと私は記憶しているのですが、ある意味プロの投資家から見た手の内を本にしたきっかけというのは、どういうことから始まったのですか。
藤野 もともとこの本を作る予定は全くなくて、この法則というのは私の居眠り対策だったんですよ。
高城 居眠り対策。
藤野 ええ。というのは、私は法学部出身でいきなり金融の世界に入り、それもほとんど財務を勉強しないできたので、営業利益と経常利益の上と下がわからないぐらいの状態で4月1日迎えているんですね。だから日本語をしゃべっているのに、先輩や経営者の言うことがわからなくて、経営者の面談で隣にファンドマネージャーがいる中で、仕方がないけど居眠りするわけにもいかないし、そこでいろいろな社長の様子とか、会社の雰囲気とかを仕事をしている振りして似顔絵を描いたり、絵を描いたりして思ったことを書きとめていたんですよ。それをずっと何年もやっていたんですけれども、その中である法則性に気づいてまとめたんですね。それをたまたま私が主催するセミナーで新聞記者等の前でお話したら「おもしろい」と言われて、その一部が天声人語に載ったんですよ。そうしたらそれを書籍化しないかという話になって、この本へという流れにつながったのです。
高城 本そのものは2004年に本が刊行されていますけども、今文庫として出ているのが2006年に再度出るという形ですか。
藤野 はい。
高城 「スリッパの法則」というタイトルがとても印象的で、スリッパを売ってらっしゃる方かなと勘違いされる方もいると思うのですが決してそうではなく、これがある意味プロの投資家から見ても、インパクトが高かったということですかね。
藤野 そうなんでしょうね。たぶん「スリッパ」という言葉がおもしろかった。「スリッパの法則」というと、一体何なんだろうということですね。普通はまさか投資に関する法則だとは思わないですよね。
川崎 サブタイトルで、「エントランスのところで靴からスリッパに履き替えるような会社には投資するな」と書いてあった。
藤野 そうですね。実際に会社訪問する時に、それほど多くあるわけではないのですが、玄関で靴からスリッパもしくはサンダルに履き替えてあがる会社があり、そういう会社に投資すると、うまくいかないケースが多かったんですよね。いくつか仮説はあるのですが、不思議だなと思っていることの1つですね。
小さいところに意外と本質的なことが隠れていることが多い
高城 法則が全て67ありまして、内容については全部お読み頂いた方がいいと思うんですけど、私も「なるほど」と思う部分と、すごくビックリしたのがありまして、法則23というところですね。「兄弟で経営している会社で、弟の学歴が兄の学歴を上回っており、保有株数に差がない場合、現在および将来の兄弟喧嘩の可能性を考える」。これ、すごくあたっているんですね。いくつかのケースを見ているのですが、これはものすごく専門的ですよね。
藤野 そうですね。非常に具体的なケースですね。
川崎 タイトルだけで「この法則はこうなんだ」と思ってしまうとまた間違えですね。「なぜそうなのか」というところを。
藤野 そうなんです。だから別にスリッパに履き替える会社だっていい会社はいっぱいあるんですよ。例外がいっぱいあるんですよね。ただ、ちょっとよくない会社を訪問して入り口に行きますと、会社の規模のわりには豪華な非常に立派すぎるピカピカの玄関で、大理石を使って、そしてこんな人を雇わなくてもいいだろうというぐらいの超美人の受付嬢がいる。会社の中に入って廊下を歩いて行くと廊下の隅が汚れていて、昔からずっと貼ってあるスローガンがそのままになっていると。社員とすれ違うと非常に覇気がない。かつ、社長室がやたらと大きいと。そういうことがどんどん続いていくと、要は今言ったのは悪い材料なんですけれども、この会社はだめなのではないかなという証拠が集まってくるんですね。だから1つあてはまっているからダメということではなくて、完璧な人はいないように、これが全部あてはまらない会社はない。でもこれがいくつもいくつもあてはまっている場合に、ちょっと注意してみないといけないと考えたらいいと思うんですね。
高城 この中でも法則14で「社長室の豪華さとその会社の成長性は反比例する」とか、「極端に美人な受付嬢がいる会社は問題がある」という法則31。法則30「トイレの汚い会社への投資は必ず損する」。法則57、「兆しに気をつける」。これなんか、かなり漠然と。
藤野 漠然としていますね。かなり細かい具体的なものから、実際にスローガンというか、心がけに近いようなものまでありますよね。「兆しに気をつける」というのはまさにある意味で全体のことをいっているようなものですけども、でも本当に小さい兆しに気をつけるかどうかということが重要で、特にこの「スリッパの法則」の中の根本的な考え方というのは、「細部に神が宿る」という考え方なんですよ。小さいところに意外と本質的なことが隠れていることが多いというのが、実はこの本の根本的なコンセプトなのです。要は小さい1つ1つのところを見逃してはいけないということだと思うんですね。僕らは結局、あくまでも外部でしか見ることはできない。会社の中に入ることができないわけですよね。一緒に働くわけにもいかないし。そうすると外から見る時に僕らは内科医みたいで、問診や患者さんの顔色とか肌の色とか手を触った感じとかを見ながら全体を判断する仕事なんですよ。
川崎 社員の方々の顔色だったり。
藤野 そうです。社長の顔色であったり、会社の雰囲気だったり、本社の中の雰囲気だったり、調度品だったりというのが会社の顔にあたるところなんですよね。例えばあごに吹き出物ができているとか、鼻にできているというと、どこの内臓が悪いのではないかということとすごく似ているところがあるんですよね。
高城 5万部を突破したということはおそらく相当広い読者が読んでいらっしゃると思うのですが、実際にこれだけのベストセラーになって、かなり反響があったのではないですか。
藤野 そうですね。「体操を強制している会社は儲からない」と「スリッパに履き替える会社は儲からない」。この2つの点について、ある中小企業の経営者からお叱りの電話があって、「そんなことはない。うちの会社は朝、体操している。それからスリッパに履き替えている。でも15年増収増益を続けている。おまえの法則は破られた。」という。
川崎 きっとお怒りだったんですね。
藤野 お怒りだったんですけど、「いや、それは本当に素晴らしいと思います。でも理由があるんです。例えば、朝体操するのは工場があって、その工場で基本動作だからやることでしょう。それからスリッパに履き替えるのは衛生管理上必要だから、そういうふうにしている。意味のあることはいいのです。意味のないことをすることはよくないと書いてあるのです。」とお話したのです。本当はする必要がないのに、ある時間になるとラジオ体操かけて全体で体操を強制している会社とか、経営者がおうちのようにくつろぎたいという公私混同の気持ちがあってスリッパに履き替える会社はよくないですよ。でも裏に何か考えに考え抜いたことがあれば、それはそれでよいことだと思うんですよね。
高城 社長は納得されたのですか。
藤野 納得しました。
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