日中間の社会問題を契機とした抗議行動が中国各地に広がっています。このような時期には、抗議行動をきっかけとした労働争議への波及の可能性にも十分に注意する必要があります。
今回は、いざという時に迅速に対応しリスクを管理できる体制が整っているかにつきチェックを行い、また、解決策の一つとしての文書化についても併せてご紹介したいと思います。
チェックするポイント リスク管理に当たってチェックすべきポイントとして、例えば以下の四つを挙げることができます。
@窓口の一本化 一貫した対応及び指揮を行うためには、社内における窓口を一本化し、対応チームを結成することが必要です。会社の規模によりチームの人数は変わりますが、人数の多寡によらず、チームメンバーは管理層ではなく中間管理職の従業員を中心とするべきでしょう。争議時、従業員と管理層との距離が近すぎることは、とりわけ決定まで時間を稼ぎたいような場合に好ましくありません。
A連絡ルートの構築(社内(現地と本社)と社外) 社内における通常時の意見交換ルートと並行して、緊急事態時における現地社内の連絡網、また本社の責任者連絡網、更に当地の公安、工会、労働部門や弁護士等外部専門家との連絡網を準備することが必要です。争議発生後は組織が混乱するため、往々にして連絡ルートもまた混乱し、結果情報の錯綜から意思決定の遅れを招くことになります。
B権限委譲の明確化 意思決定を遅らせるもう一つの要因である、権限委譲についても明確化が必要です。従業員からの要望に対し、対応チーム限りでの処置決定可能範囲、すなわち経営者の権限をどこまで対応チームに移譲するのかを明確化しなければなりません。
その際、移譲される権限は具体的に定められることが望ましく、例えば金額ベースで移譲範囲を定める方法などが有効です。
C法的根拠の把握と準備 争議時には、会社側が適法な対応をしていることを従業員に示す必要があります。そのためには緊急時に使用する会社側からの通知等の法的文書の他、交渉にあたってその根拠条文となる法律を常時準備、更新することが重要です。
文書化の必要性と作用 日系企業に共通する問題点として、意思決定が遅く事態収拾が遅れる点があります。この原因の一つとして、緊急時の対応体制がしっかりと構築されていない事が挙げられます。例えば、上記4点につきあらかじめ定めておくだけでも、緊急時の意思決定はかなりスムーズになります。
ただし、決定は書面でなされ、いざという時に関係者全員で参照できなければ意味は半減してしまいます。また、状況の変化に応じて適宜改変がされなければせっかくの決定も形骸化し、無用の長物ともなりかねません。加えて、労働争議の際に決定すべき事項は漏れなくダブりなく網羅されていなければなりません。
そこで、例えば緊急時の対応制度を外部の専門家や過去に労働争議処理を経験した事のある社員の意見を踏まえつつまとめておき、かつ随時メンテナンスしていくという、文書化の作業が重要となります。文書化により、突発的な事態に直面した際の遅延と、遅延に伴う争議の拡大をある程度コントロールすることが可能です。
ぜひ自社のリスク管理体制の再確認と、文書化を検討してみてください。
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おかざわ・ひろこ(
青葉ビジネスコンサルティング・シニアコンサルタント)/横浜出身、日本大学新聞学科卒。中国のIT会社勤務を経て現職、中国歴6年半。主に中国進出全般のアドバイザリーに従事。特に知財コンテンツ関係に詳しい。趣味はパン作り。