今回は、中国の会社との共同事業スキームについて考えてみましょう。
共同事業スキームの種類 日本では、特定の事業を実行するために、複数の企業が自社の得意分野である技術力や営業力、ブランドなどの資産を持ち寄り、共同企業体(JV)と呼ばれる会社ではない組織を結成して共同事業を行なう(土木工事などでよく見られます)方法がよく知られていますが、中国では外資が利用可能な方法は主に二つあります。
一つは必要な資産を出資しあって契約ベースで事業を行なう方法、もう一つは合資・合作会社を設立する方法です。基本的に共同事業はこの二種類の方法とその組み合わせによると考えてよいでしょう。
方法1 契約ベースによる事業遂行 共同である事業を実行すること自体は、利益配分、危険負担、意思決定プロセスなどについて双方合意がなされていさえすれば、必ずしもその事業を目的とする会社組織によらず、一方がもう一方の会社名義で行なう事業にプロジェクトベースで協力することでも十分可能です。
ただし、契約内容について異なる解釈が可能な場合などではさまざまな争いになるケースも多く、十分な注意が必要です。また、以前VIEスキーム(第2回)においてご紹介したように、自社に勤務する中国人スタッフの名義を使って中国国内に内資企業を設立した場合、本人との関係がこじれたときに問題が発生しやすい点も考慮しなければなりません。
この方法に拠る場合、利益は契約に基づくサービス提供の対価として回収することになります。
方法2 合資・合作会社の設立 契約ベースで共同事業を行なう場合の限界として、共同事業体自身の名義で契約や資産保有が行なえないことが挙げられます。
その点、合資・合作会社の設立であれば法人として契約行為や資産保有ができるほか、意思決定プロセスも会社法上のプロセスに拠ればよいため、より安定的に共同事業を行なうことができます。特に合作会社は、合作契約に基づき経営条件をかなり自由に定めることができる点で、契約ベースによる事業遂行に似通っています。
ただし、会社設立時にまとまった額の資本金投入が必要となる点がデメリットといえるでしょう。 この方法に拠る場合、利益は原則配当として回収することになります。
リスク回避のための香港活用 中国現地企業(場合によっては台湾・香港系企業)と共同事業を行なう場合、多くの日系企業が契約の実効性や争いが生じた場合の処理に困難を感じています。
そんな場合、例えば契約の履行地を香港にしたり、あるいは香港で合弁会社を設立してからその子会社を中国国内に設立する形をとることで、より透明度の高い香港での紛争解決を図ることができます。
現在、対中直接投資が伸び続けているのは主要国では日本だけですが、日本以外の多くの企業は香港をうまく利用して間接的に対中投資を行なっているのが現状です。
日本との租税条約等の締結や日本国内の政策整備をうけて格段に使いやすくなった香港。ぜひ香港を積極的に使ったスキーム構築を考えてみてください。
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上原尚大(
青葉ビジネスコンサルティング・シニアコンサルタント)/東京出身。東京大学大学院修了。大手食品メーカー、広告会社の人事を経て現職。広州にて中国法務アドバイザリーに従事。専門は人事労務。趣味は食べ歩き。