長引くデフレ不況に悩まされ、現在も毎月1,000件以上の中小企業が倒産している。
平成22年度は13,065件もの中小企業が市場から姿を消した(中小企業庁統計データより)。
しかし、企業はただ黙ってその寿命がつきるのを受け入れるしかないのだろうか。
創業期〜成長期〜成熟期〜衰退期
企業は創業してから寿命が尽きるまで、このライフサイクルを繰り返している。
厳しい経済状況の中、衰退期から抜け出し、再び成長軌道に乗せるために、中小企業は今、何をすべきなのか。
私は株式会社コストダウンという会社を2006年に起業した。大手コンサルティング会社で20年間培った経験をもとに、中小企業に対し、コスト削減に特化したより細やかな支援をしていきたいと考えたからだ。起業しておよそ5年半になるが、お陰様で多方面の方よりパートナーとしてのお誘いもいただき、色々な方々と手を組みながら、日々中小企業のコスト削減に励んでいる。
そのパートナーの一つで、私が特別研究員として参画している
インターネットFAX総合研究会で、情報通信機器に関するアンケート調査を実施したのだが、そこで出てきた結果に、改めて多くの企業にコスト削減の余地が残されていることに気づかされた。
また、大震災後には弊社への問い合わせが増加した。リーマン・ショック後でさえ、ここまで問い合わせが増えることはなかったのにだ。
これらを鑑みて驚いたのは、中小企業の多くがコスト削減の余地を残しており、削減意欲もあるのだが、何から手をつけていいのかわからない。しかし喫緊の課題としてすぐにでも取り組まなければならない。どうすべきか・・・。こう悩まれている中小企業経営者がいかに多いことか。
そこで本連載にて、すぐにでも着手できるコスト削減の方法を提案していきたいと考えた。
それも生産性を高めるコスト削減だ。
たいていは人件費や設備投資など、企業の要とも言える部分のコストを削減してしまうため、
社員のモチベーションは落ち、企業はますます業績が悪化していく・・・
こういった状態に陥りがちだ。
しかし削減するのは企業の未来であってはならない。
人材やノウハウといった企業の財産を残すために、何を削減すべきなのか。
本連載で提案するのは、社員の意欲の向上や仕事の効率化につながるような、
生産性の高いコスト削減の手段である。
企業が再び成長軌道に向かうべく、今一度コストを見直す参考にしていただけると幸いである。
■ ■ ■ 生産性を高めるコスト削減を
革新的かつ効率的なコスト削減を実現するには、常に最新の情報を仕入れておく必要がある。
たとえば、従来の電球や蛍光灯の照明より、LED照明のほうが電気代を半分に抑えられ、
CO2排出量も減るといわれている。LED照明は従来の電球と比べて価格が高いが、
その分長持ちするので、長期的な視野に立つとコスト削減になるのである。
目先の利益に流されず、中長期的な経営戦略に立ったコスト削減が必要なのは言うまでもない。
それでは、生産性を高めるコスト削減、なおかつ短期的ではなく、中長期的な経営戦略に基づいた
コスト削減をするために適した方法として、どんなことが考えられるだろうか?
その主な方法の一つとして、ペーパーレス化が挙げられる。
恐らく、コスト削減策としてペーパーレス化を意識はしていても、力を入れて実行している企業は
まだ少ないであろう。けれども、実はペーパーレス化は真っ先に進めて欲しいコスト削減手段である。
ペーパーレス化を進めるには、ムダな人件費もかからないし、設備費も通信費も消耗品費もカットできる。
ペーパーレス化は多くのムダが省ける、とても効率的な方法なのである。
このペーパーレス化、最近になって取り上げられるようになったテーマではなく、実は1970年代から
話題になっていた。が、なかなか実現にまで結びつかなかったのだ。
しかし今、インターネットの世界は充実し、スキャナーの精度は良くなり、ハードディスクの容量は増大した。
スマートフォンやタブレットPCも生まれ、クラウド型サービスも徐々に浸透しつつある。
つまり、紙の代替となる媒体やツール類が増えたことで、自然とペーパーレスに移行できる素地が整いつつあるのだ。
ペーパーレスは、「レス」することで生み出すものの多いコスト削減の方法である。削るだけのコスト削減から、生産性向上を伴うコスト削減へ。この機会に、皆さんも今まで見過ごしがちだったコスト削減の1つ、ペーパーレス化について検討してみてはいかがだろうか。
ただし、ペーパーレス化は失敗するケースも多いのは事実。ただ何となく紙を減らそうとしてもうまくいかない。
コスト削減の基本は、なぜ減らすのか、何のために減らすのか、何を減らすのか、どういう方法で減らすのか。ペーパーレス化も同じで、これを最初に考えておかないと、うまく機能しないどころか、却って社内に混乱を招きかねない。目的なきコスト削減は、企業の体力を奪ってしまうということを肝に銘じておきたい。
■ ■ ■ オフィスのペーパーレス化 進まないのはなぜ?
ここで一つ、ペーパーレス化に成功した企業の事例を紹介しよう。
軽自動車メーカーのスズキの話しである。同社は、2008年からコスト削減に取り組んでいる。
とくに注目すべきは、ペーパーレス化の手法だ。2008年に社内で消費したコピー用紙は4,233万枚だったそうだ。
数字だけで「こんなに使ってるんだから、もっと減らせ」といったところで、社員にはピンと来ないだろうと、
会長兼社長の鈴木修氏は一計を案じた。
そこで、紙置き場の横に富士山の絵を書き、消費したコピー用紙を積み上げたら富士山の高さ
3,776mを超えて3,810mにもなるのだと、「ムダの見える化」を実行した。
そのほか、各種帳票の電子化推進、裏紙使用促進、会議配布資料の削減など、全社的にペーパーレス活動を実施した結果、2009年度は前年に比べ60%もの大幅なペーパーレス化に成功したのである。
(出典:日経ビジネス09年3月30日号)
しかし、世の中のペーパーレス化は思ったほど進んでいないようである。
中小企業の従業員を対象にしたアンケートによると、紙の使用量の削減意識は3年前と比べて
「あまり変わらない」が最も多く46.4%。「とても高くなった」「どちらかといえば高くなった」の合計は
41.2%なので、何も意識していない人が大半だといえるだろう。
(インターネットFAX総合研究会調べ、図1参照)
図1:情報通信機器に関するアンケート調査